【独自解説】新米も値上がり…『備蓄米』なぜ出せない?政府が危惧するコメの値崩れは生産者の手取り減だけではない!「農家の票田を失いたくない」自民党の思惑とは―
なぜかというと、今ちょうど新米が出回ってきている時期なのに、備蓄米を出すと世の中にお米の量が増え、全体的に値崩れを起こす恐れがあるからです。安くしか売れなくなると、消費者にとっては嬉しい話ですが、苦労して作られている生産者にとっては、手取りが増えないという問題が出てきます。
■「農家の票田を失いたくない」政府が備蓄米を放出しない思惑
また、政府には今「備蓄米放出でコメの価格を下げてはいけない大きな理由」があると、私は思っています。その理由が、農家・農地は正によく言ったもので、『票田(ひょうでん)』です。新しい総裁が決まったら衆議院の解散総選挙が近いのではと言われる中で、自民党は「農家の票田を失いたくない」という思惑があるのではないでしょうか。
自民党と農業の関係は、最近では大分弱まったといわれていますが、かつて農協は『自民党の集票マシーン』といわれた時代がありました。弱ってはいるものの、参院選挙をやると今でも20万票ぐらいは持っていて、『組織内候補』といって、自分たちが押し上げたい人たちを自民党の全国比例候補として押し上げるだけの力を持っています。自民党にとっては、郵便局の局長会や日本医師会などと同じぐらいの力を持つ“自民党の有力な支持団体”が、農家です。 ただでさえ今度の選挙は「自民党にとって逆風」といわれる中で、そんな農家を敵に回すようなことをやってしまうと、さらに厳しくなると予想されるため、やりにくいということです。 民主党政権時代、小沢一郎氏が『個別所得補償』という政策を掲げて、農家の支持をすごく得たことがありました。2021年の衆院選で、立憲民主党は『個別所得補償』の復活を掲げて、恐らく今回も出してくるのではないかと思います。それで農家の票に揺さぶりをかけてくる可能性があるので、「そう簡単に備蓄米は出せない」という思惑はあると思います。
■時給699円…コメ農家の厳しい現実
消費者の立場から言うと『農政の問題』がありますが、一方で、農家の立場の問題もあると思います。今回値上げした理由について、取材した全農秋田県本部運営委員会・小松忠彦会長は、「コメの品薄に便乗したわけではない。農業の担い手が不足する中、子や孫の食を守るため」だと強調しています。
農家は、儲かっているわけではありません。今や最低賃金が全国的に1000円超といわれる中で時給699円と、決して儲かってはいません。また、高齢化・生産者減少もあり、コメを作る人がいなくなる問題もあります。「農家を守るという意味で、価格を安定させることも必要」という時代に来ているような感じがします。 このタイミングで我々が考えなければならないのは、「コメの適正な価格は、いくらなのか」ということです。消費者の立場・生産者の立場、いろいろあると思いますが、考えるきっかけになればいいと思います。 (「かんさい情報ネットten.」2024年9月2日放送)
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