《ブラジル》世界のレストラン・ベスト50に見るラテンアメリカ=執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)
「2024年版世界のベストレストラン50」の概要
「2024年版世界のベストレストラン50」(The World’s 50 Best Restaurants)が6月5日、米ラスベガスの統合型リゾートのウィン・ラスベガスで発表された。このイベントは、2002年にイギリスの雑誌「Restaurant」の特集として初めて掲載され、継続している。その後、2013年以降、地域別レストランリスト「アジアのベストレストラン50」と「ラテンアメリカのベストレストラン50」も発行しており、2022年2月には「中東・北アフリカのベストレストラン50」を創刊した。 このランキングは1千人以上の独立した専門家による投票の結果選ばれる。World's 50 Best Restaurants Academyという組織は、世界27の地域で構成されている。各地域に議長(アカデミー・チェア)がおり、その議長が40人を集めて投票する。このパネルには、その地域を代表するシェフやレストラン経営者、フードジャーナリストや評論家、そして旅慣れた美食家などが均等に選ばれている。投票に基準はなく、会計会社のデロイトが、1080人の投票者に自らの考えを述べさせ、その票を集計してリストを作成するというシステムを採用している。 2024年版の世界のベストレストランのリストによると、ベスト50のうち、スペイン5軒、イタリア、フランス、タイが各4軒、日本、ペルー、メキシコが各3軒、米国、ドイツ、英国、ブラジル、香港が各2軒となっている。世界的にみるとスペイン、イタリア、フランスの地中海諸国、アジアでは、タイ、日本、香港が上位にランクされる。注目すべきは、ラテンアメリカ諸国は、ペルー、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、チリの6カ国で50位中11軒がランクインを果たしていることである。 スペインは、1位のDisfrutar、2位のAsador Etxebarri、4位のDiverxoと上位を独占している。ラテンアメリカ諸国も大いに健闘しており、ペルーのリマにある日本レストランのMaidoが5位、メキシコシテイにあるQuintonilが7位、アルゼンチンのブエノスアイレスにある Don Julioが10位と三つのレストランがベスト10に入っている。今後、ますますラテンアメリカの有名レストランは世界や日本でますます注目されるようになることが予想される。 以下、ベスト50に入っているラテンアメリカ諸国のレストラン11を取り上げる。個人的に一度も行ったことのないレストランばかりであるが、駐在員や旅行や出張で訪問するビジネスマンのために、この調査のコメントを参照し紹介しよう。 (1)Maido (5位) *住所:San Martín 399, Miraflores, Lima, Peru/*平均価格75ドル、*ティステイング・メニュー150ドル/*ラテンアメリカのベストレストランに3年連続でランクインし、「世界のベスト50」の常連/*津村〝ミチャ〟光晴(Mitsuharu ‘Micha’ Tsumura)のペルーと日本の文化遺産が皿の上でぶつかり合う場所/*来客者は、「まいど」と出迎えられる/*シーフードが特徴で、寿司バーもある。セビーチェと50時間煮込んだ牛のショートリブがお勧め (2)Quintonil(7位) *住所:Newton 55, Polanco, Mexico City, 11560、Mexico/*平均価格30ドル、*ティステイング・メニュー120ドル/*ワールド・ベスト50の常連/*「キントニル」の名前は、メキシコの緑色のハーブにちなんで名づけられた/*オーナーはホルヘ・バジェホ (Jorge Vallejo)/*メキシコ各地から、最高品質の持続可能な食材を毎日集めている/*10段階の季節のティステイング・メニューがお勧め。ワインリストにはメキシコのヴィンテージが多数並ぶ。 (3)Don Julio(10位) *住所:Guatemala 4699, Palermo Soho, Buenos Aires, C1425 CABA、Argentina/*平均価格30ドル、*「ラテンアメリカのベストレストラン50」や「世界のベストレストラン50」に常にランクインしている/*オーナーのパブロ・リベロ (Pablo Rivero)は、牧草で育てた最高品質のステーキを提供することに専念/*ペペ・ソテロ (Pepe Sotelo)は熟練のアサドール(グリル・マスター)でビフェ・デ・チョリソは肉厚でジューシー (4)Kjolle(16位) *住所:Av. Pedro de Osma 301, Barranco, Lima, 15063、Peru/*平均価格50ドル、*ティステイング・メニュー125ドル/*Kjolleは、アンデスの花にちなんで名付けられている/*ラテンアメリカのベスト50を3度受賞した高名な姉妹店「セントラル」の若き兄弟店/*シェフのピア・レオン (Pía León)は、2018年にラテンアメリカの最優秀女性シェフに選ばれた/*ペルーの豊かな食材を最大限に生かした料理が中心 (5)El Chato(25位) *住所:Calle 65 #4-76, Chapinero, Bogotá, 110231, Colombia/*平均価格40ドル/*2018年の「ラテンアメリカのベスト50」で最高位にランクインした/*シェフのアルバロ・クラビホ (Alvaro Clavijo)は、ヨーロッパと北米の一流厨房で経験を積んだ後、故郷に戻り、古典的な郷土料理をベースに、鶏の心臓、若いジャガイモ、卵黄とソレル、マッシュルームのタルタルなど、アレンジを加えている/*デザートには、アボカド・スフレがお勧め (6)A Casa do Porco(27位) *住所:R. Araújo, 124, Centro Histórico, São Paulo, 01220-020, Brasil/*平均価格:25ドル、*ティステイング・メニュー40ドルから/*シェフのジェファーソン・ルエダ(Jefferson Rueda)は、ラテンアメリカのベスト50の常連/*豚肉のみのレストランで、牛肉が大好きなブラジルのタンパク質の常識を覆した。放し飼いの豚を尊重し、豚のあらゆる部位を使用している/*15品のティステイング・メニューがお勧め (7)Borago (29位) *住所:Av. San José María Escrivá de Balaguer 5970, Vitacura, Santiago, 7640804、Chile/*ティステイング・メニュー90ドル/*シェフのロドルフォ・グズマン (Rodolfo Guzmán)は、チリ全土の小さな生産者や採集者と協力し、レストランのバイオダイナミック農園や果樹園で自分の裏庭から野菜を調達/*このシステムによって2018年に「ラテンアメリカのベスト50サステナブル・レストラン賞」を受賞したほか、ラテンアメリカ大陸のベストレストランのトップ5に常連として名を連ねている。 (8)Pujol (33位) *住所:Tennyson 113, Polanco, Mexico City, 11550、Mexico/*ティステイング・メニュー120ドルから/*シェフのエンリケ・オルベラ(Enrique Olvera)は、何千年にも遡る料理の歴史を見失うことなく、メキシコ料理をかつてない高みへと昇らせた/*2019年には北米のベストレストラン賞を受賞/*二つの7品のテイスティング・メニュー(「コーン」または「シー」)がお勧め/*新鮮なモーレと1500日間熟成させたモーレのコントラストをあじわうことができる。 (9)Rosetta (34位) *住所:Colima 166, Roma Norte, Mexico City, 6700, Mexico/*平均価格40ドル/*シェフのエレナ・レイガダス (Elena Reygadas)は、2014年にラテンアメリカの最優秀女性シェフに選ばれた伝統的なメキシコ料理をアレンジしている/*メニューは日替わり。セロリ入りトウモロコシのタマーレ、スズキのサンピア添え、発酵ニンジン入りホワイトモーレなどが人気だ。 (10)Oteque (37位) *住所:Rua Conde de Irajá, 581, Botafogo, Rio de Janeiro, 22271-020、Brasil/*ティステイング・メニュー120ドルから/*シェフのアルベルト・ランドグラフ (Alberto Landgraf)が自ら設計したオート・キュイジーヌ・メニューのエレガントなレストラン/*牡蠣、ブラジルナッツミルクと青リンゴ、ローストオニオン、ウニとムール貝のクリームなど、8品からなるティステイング・メニューがお勧め (11)Mayta (41位) *住所:Avenue Mariscal La Mar 1285, Miraflores, Lima, 15027、Peru/*平均価格41ドル/*シェフのハイメ・ペサケ(Jaime Pesaque)は、ベスト・オブ・ザ・ベストの殿堂入りを果たした/ル・セラー・デ・カン・ロカを含む、世界有数の厨房で腕を磨き、ペルーに帰国した/*地元の食材と風味を独創的に使い、熟練したテクニックと融合させた料理が評価され、2019年のラテンアメリカのベストレストラン50に選ばれた。 世界ランキング50位以内に入った11のレストランに加え、もう一つペルーのCentralを紹介する。なぜなら、過去に1位を獲得したレストランはランキング対象外となり、「ベスト・オブ・ザ・ベスト」として殿堂入りするからだ。2023年には、ペルー・リマのCentral(セントラル)が堂々1位になったからである。 (12)Central 「2023年世界のベストレストラン50」の第1位 *住所:Av. Pedro de Osma 301, Barranco, Lima, 15063、Peru/*ティステイング・メニュー180ドルから/*シェフのビルヒリオ・マルティネス(Virgilio Martínez)は、ペルーの膨大な食料庫を徹底的に調査しペルーの驚くべき生物多様性を反映した革新的なテイスティング・メニューを考案/*セントラルは2013年にラテンアメリカのベストレストラン50の4位にランクインし、その後3年連続で首位を獲得した/*マルティネスの妻でもあるピア・レオン (Pía León)は厨房を監督し、2018年にオープンした初のソロ・レストラン「Kjolle」も担当している
「2023年版ラテンアメリカのベストレストラン50」の概要
2023年度のラテンアメリカのレストラン・ベスト50(Latin America’s 50 Best Restaurants 2023)をみると、メキシコ11軒、ペルー9軒、ブラジル、アルゼンチン各8軒、コロンビア5軒、グアテマラ、パナマ各2軒、チリ、コスタリカ、ボリビア、エクアドル、ウルグアイが各1軒となっている。メキシコ、ペルー、ブラジル、アルゼンチンの4ヶ国がラテンアメリカのグルメ大国と言えよう。続いて、コロンビア、グアテマラ、パナマが続く。