トランプ2.0で注視すべきは市場の変動性拡大、米国内の分断、世界秩序の揺らぎ 長谷川克之
「米国を再び偉大に(MAGA、“Make America Great Again”)」を掲げて大統領選で当選したトランプ氏。新政権誕生への準備が急速に進んでいる一方で、世界は身構えている。新時代は何をもたらすか。注視すべき点が三つある。 まず、経済・金融市場のボラティリティー(変動性)拡大である。景気刺激と規制緩和を進めるビジネスフレンドリーな大統領誕生は目先は歓迎されよう。しかし、AI(人工知能)・ハイテク株、クレジット商品、暗号資産などでの金融市場の割高感が増し、バブル化する恐れがあることには注意が必要だ。今後のインフレと金利の動向次第ではバブルの崩壊や金融システム不安の再燃も考えられる。トランプ政権1期目での金融規制の緩和や2022年の金利の上昇が、23年のシリコンバレーバンクなどの米銀破綻の一因になったことは記憶に新しい。 次に、米国内の分断である。著名投資家レイ・ダリオ氏が国内対立や格差により計算している国内秩序指数によれば、秩序のリスクは1900年以降で最も高まっている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が選挙直前に実施した世論調査では、有権者の87%が支持する候補者が負けた場合、米国は恒久的ダメージを受けると考え、またハリス氏支持者の57%が、トランプ氏が当選したら恐怖を感じると回答している。 トランプ氏が政敵などに対する復讐(ふくしゅう)的な対応を取ったり、刑事被告人である自身や議事堂占拠事件での有罪判決者に恩赦を与えれば民主主義のあり方が問われることになろう。移民の受け入れも含めて多様性に富む、自由で闊達(かったつ)な社会が米国経済のダイナミズムの源泉であったはずだ。米国社会の不寛容化が経済に与える中長期的な影響にも注目したい。 加えて、グローバルな政治、経済・通商秩序のさらなる揺らぎである。トランプ氏はウクライナに対して軍事支援の縮小圧力をかけつつ、ロシアとの停戦を迫るだろう。しかし、残念ながら停戦は「偽りの平和」となる公算が大きい。ウクライナ東部でのロシアの実効支配が固定化されれば侵略が正当化されかねない。ロシアは戦力増強の時間的猶予を得て、ウクライナへの再侵攻のタイミングを虎視眈々(たんたん)と狙うことも可能だ。中東では、トランプ政権を後ろ盾にしてイスラエルが強硬姿勢を一段と強めることが予想される。
他方で、米国は中国との対立姿勢を強め、懲罰的な高関税を課すことになる。普通関税の引き上げも加わり、平均関税率が悪名高き1930年のスムート・ホーリー法施行時以来の水準にまで高まる可能性もある。保護貿易と世界経済のブロック化が第二次世界大戦の背景にあったことは衆知の通りである。 大戦終了後80年の節目となる2025年。MAGAは世界にとっては“Make All Gloomy Again(世界を再び憂鬱に)”となるかもしれない。 (長谷川克之・東京女子大学教授)