「イスラム国」対応で苦悩するアメリカ 本格介入はあるのか?
アメリカのオバマ政権は8月中旬、イラク国内で勢力拡大を続けるイスラム教スンニ派過激組織「ISIS(イスラム国)」のへの限定的な空爆に踏み切りましたが、それ以降、状況は改善されるのではなく、逆に一気に深刻化しています。抜本的な状況打開のために、空爆を援護するためイラクに地上軍を投入する必要性や「イスラム国」のシリア側の拠点に空爆を行う可能性も議論されています。 【写真】“弱腰”オバマ外交 アメリカの覇権は終焉したのか
■オバマ氏の「失言」
しかし、「イスラム国」をめぐる大規模な介入は、オバマ政権にとっては大きな賭けです。 長期化したイラク、アフガニスタン両戦争で疲弊したアメリカ国内には、厭戦気分が蔓延しています。アメリカ人ジャーナリストを続けて斬首した映像の公開は国民を震撼させましたが、それでも「イスラム国」への大規模介入については、世論は現段階でも慎重です。 面倒なことに、6月上旬の段階で、オバマは「イラクへの地上部隊派遣(ブーツ・オン・ザ・グランド)はない」と記者会見で公言しています。この発言があったため、地上軍投入の介入のハードルは高くなっただけでなく、相手に手の内を見せてしまった形となっています。 オバマ政権内にも温度差があります。「イスラム国」に対しては、オバマ大統領はこれまで比較的冷静に言葉を選び、「封じ込め」という比較的弱いニュアンスの言葉を選んでいます。これに対して、バイデン副大統領は9月3日に「イスラム国」を「地獄に追い落とす」と強い言葉で壊滅を誓いました。しかし、その翌4日、「イスラム国」への対応に関しオバマ大統領は「戦略はまだ持っていない」と記者会見で話しています。 オバマ大統領の言葉は無防備なほど率直過ぎる気もしますが、それほど「イスラム国」の対応に苦慮していることがこの言葉からもうかがえます。
■“パンドラの箱”
実際に、大規模介入した場合、アメリカにとっての泥沼化も大きく懸念されます。 中東は複雑で微妙なバランスで成り立っています。例えば、「イスラム国」はシリア国内ではアサド政権打倒を進めていますので、「イスラム国」をたたけば、昨年秋には攻撃開始寸前の状態だったアサド政権をオバマ政権は助けてしまうことになります。イラクの現政権を支援しているイランは核開発問題でアメリカの宿敵といっていい存在ですが、「イスラム国」をめぐっては、両国は協力可能な関係でもあります。「イスラム国」という目下の敵を倒すために、他の敵対勢力と接近するようなことをした場合、これまでのアメリカの外交政策の流れを覆してしまうことにもなります。 その他にも複雑なことがあります。アメリカがイラク北部を限定したのは、「イスラム国」からイラクを助けるという理由だですが、アメリカが過度にシーア派側のイラクの現政権に肩入れするのはことで、宗派対立を激化させてしまうかもしれません。そうなると、中東内の他のスンニ派を刺激し、反米感情が非常に高まり、中東地域のアメリカ関連施設に対するテロも誘発しかねません。 さらに、テロについては、ナインイレブン(9.11)のようなアメリカ国内をターゲットにしたシナリオも想定外とはいえません。実際、「イスラム国」にはアメリカ国籍のメンバーも相当数含まれており、アメリカ国内でのテロを準備も進めているといわれています。 8月21日の記者会見で、「イスラム国」について「テロ組織の域を越えたかつてない組織」「洗練された戦略、莫大な資金を持っている」とヘーゲル国防長官が指摘しているように、アメリカにとって、「イスラム国」は相手としては非常に手ごわい存在です。「イスラム国」に対して、大規模な介入をした場合、オバマ政権、あるいは次の政権にも続くような長期的なコミットメントがアメリカには必要になるかもしれません。そうなると、出口政策は想像するのも困難になってしまいます。 アメリカの積極的な軍事介入が“パンドラの箱”を開けてしまうかもしれません。