三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗事件で盗まれた「最も高価なもの」とは?
11月22日、三菱UFJ銀行は、元行員による貸金庫窃盗事件を公表しました。窃盗の被害に遭った顧客は約60名、被害額は時価十数億円程度といわれています。この事件で盗まれた「最も高価なもの」とは…?そして、盗んだ元行員の「次」に悪かったのは誰なのでしょうか。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博) ● 三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗事件 「盗んだ元行員」の次に悪いのは? 三菱UFJ銀行で貸金庫の中の財産を行員が盗むという大事件が起きました。 半沢淳一頭取は記者会見で「信頼・信用のうえに成り立つ銀行ビジネスの根幹を揺るがすもの」として深く頭を下げて謝罪しましたが、実際、金融経済に関わる立場の人間は口をそろえてこれはそれほどの大事件だと断定します。貸金庫が信用できないと利用者が考えるようになったのです。 懲戒解雇の結果、現在は「元行員」となっているその行員は、自分が管理の責任者だった練馬支店と玉川支店で2020年4月から約4年半にわたる在籍期間に現金などの窃盗を繰り返していました。 さて、この問題、盗んだ行員本人が悪いことは間違いありません。しかし、次に悪かったのは誰で、どのような理由で悪いのでしょうか?半沢頭取にはどこに責任があるのでしょうか? 実はこの事件、半沢頭取にとって不幸中の幸いともいえる状況があります。事件が発覚後も、昨日の記者会見の後も、三菱UFJフィナンシャルグループの株価は安泰でした。 もしこの事件の影響で株価が大幅に下落した場合、三菱UFJはニューヨーク市場にも上場していますから、米国の株主から訴訟を受ける可能性がありました。仮に事件の影響で株価が5%下がれば1兆円規模の企業価値の滅失ですから、その損害を賠償請求される可能性があったのですが、そのリスクは回避できたようです。
結果的には、三菱UFJに対する処罰は金融庁からのものに限定できそうです。金融秩序を揺るがした咎により一定の処分が下りることからはまぬがれないでしょうけれども、裁判で銀行の責任が追及されるリスクはなくなったということです。 ではその回避された訴訟がもし起きていた場合には、誰がどのような理由で経営責任を問われるのでしょうか。この記事ではコンプライアンスを切り口に何が問題なのかを解説してみたいと思います。 ● 三菱UFJ銀行の記者会見で 引っかかる点が2つある そのコンプラに関わる箇所について、記者会見を見ていて気になったやり取りがふたつありました。 ひとつは犯行を行った元行員について、責任者の地位についた当時は評価に問題がなく、その後、犯行を行うように(人柄が)変わったという説明です。 暗に人事部には任命責任がなかったと言いたかったのでしょうか。気になるやり取りでした。 もうひとつは鍵を管理するプロセスについて「少し不十分な点がありまして」と説明している点です。プロセスに不備があったから事件が起きたわけですが、役員としては暗に些細な欠陥があっただけだと言いたかった様子です。 では責任逃れを疑われるこのふたつの発言、裁判になった場合、どちらがより責任が重いのでしょうか。 それを理解していただくために、コンプライアンスの基本問題を一問、クイズ形式で出させてください。 読者であるあなたは、とある携帯ショップチェーンの店長だったとします。繁盛店で業績は安定しています。従業員は皆、あなたと昔から一緒に働いてきた仲間ばかり。あなたの評価では悪人はひとりもいません。 さて、お店のバックヤードには販売用のiPhoneが無造作に置いてあります。あなたは従業員を信じて、バックヤードに鍵をかけていませんでした。そのお店である日、iPhoneの盗難が発覚します。在庫のiPhoneが抜き取られて転売されていたのです。 やがて社員のひとりが自首します。実は家族の借金で生活が回らなくなり、つい在庫を盗んだというのです。 ここで問題です。あなたはその後、本部から呼び出されます。あなたは処分されるのですが、それはどのような理由からでしょうか?コンプラの観点でお答えください。 これは要するに部下が犯罪行為を行った際に、管理職であるあなたにどのような責任が問われるのかを考える問題です。 先に正解をお話しします。