ただの責任逃れ?何のための報告? やたら「報連相」をする人に伝えたい上司の偽らざる本音
上司や先生と呼ばれる立場ならば、「確認してください」と言われた際には、ときには厳しく、「これは『確認してください』という内容のものではないよね」と伝えることも必要です。 こうして、互いには見えない心の内を擦り合わせていくことで、「相手の立場に立つ」ことに近づいていけるのではないでしょうか。 ビジネスで頻繁に使われている「確認してください」という言葉は、非常に曖昧で、甘えのある言葉です。この言葉を使う場合には、「誰かに責任を押しつけることになっていないか」ということを、確認を頼む側も、頼まれる側も意識したほうがいいでしょう。
■言いにくいことでも報告できる環境とは? 部下からの「ホウレンソウ」がないというのは、上司のよくある悩みのひとつです。 ただし、実はこうした悩みが生まれてしまう背景には、上司が「部下(相手)の立場に立てていない」ということがあるかもしれません。 というのも、部下に「なぜホウレンソウが必要なのか」が伝わっていないのに、上司がそれに気づいていない可能性があるからです。 上司は往々にして、しなければならないことだけを部下に伝えます。
「この件の報告をまだ受けていないぞ(以上)」 「あの件はどうなった? (以上)」 このように尋ねても、部下が感じるのは、ホウレンソウを求めているということだけ。「WHY」の部分、「なぜホウレンソウが必要なのか」は伝わりません。 あるメーカーの営業チームで、このようなことがあったそうです。その会社では、営業先に向かう際、担当者が自分で車を運転することがよくあります。日々の運転の中では、ちょっとどこかに車をこすってしまった、というようなことも、さほど珍しいことではありませんでした。車に傷をつけてしまった場合でも、特に罰則はなし。ただ「報告するように」と社員には伝えられていました。
しかし、何度言っても、その報告が上がってこない。何人かで交代で車を使っているうちに、気づくと傷が増えている、という状況が続いていました。 ■この場合、どうすべきだと思いますか? この話をしてくれた方は、その後、上司が部下たちにあることを伝えたら、社員の目の色が変わり、傷にもならなかったようなちょっとした接触でも報告するようになったと教えてくれました。上司が伝えたこととは、次のような内容です。 「今は、スマホですぐに撮影ができる。事故を撮影した人が、会社に連絡をしてくれればいいが、いきなりネットにアップされたりしたら、会社としても対応が後手に回る。そうなれば、運転をしていた皆さんの顔や名前までさらされることになるかもしれない。〇〇会社の社員がこんな事故を起こしたと広まり、炎上してしまったら打つ手がない。だからその前に、なるべく早く報告してほしい」
この話を聞くまでは、部下にとっては「報告=自分のミスをわざわざ伝える行為」でした。しかし、なぜ報告が必要なのかを知ったことで、「報告=ミスの次に起こり得る炎上を防ぐ行為」に変わったわけです。 このように、ホウレンソウのない職場は、「なぜそのホウレンソウが必要なのか」を部下が気づいていないことに上司が気づいていない、という二重の問題となっていることも多いものです。 上司としてホウレンソウを求めるのならば、「なぜホウレンソウが必要なのか」をきちんと説明することが、「相手の立場」に立ったコミュニケーションといえるでしょう。
今井 むつみ :慶応義塾大学環境情報学部教授