オーストラリアがイラクに再び兵を送る理由
日本ではほとんど報道されていませんが、オーストラリアはこのほど情勢が緊迫しているイラクに再び兵を送ることを決めました。現時点では、武装勢力「イスラム国」に包囲された少数派に空から物資を投下する人道支援活動に限定しているものの、軍事攻撃の可能性に含みを残しています。比較的兵力の小さい南半球の国がなぜ、混迷するイラク情勢に足を突っ込むのでしょうか。 公共放送ABCテレビによると、オーストラリアのアボット首相は13日、訪問先のロンドンで記者団に「(イラク北部で勢力を拡大している)イスラム国の殺りくから、数千人を開放する」と述べ、作戦の目的が人道支援であることを強調しました。オーストラリア軍の輸送機C130を現地に派遣し、地上で孤立しているクルド系のヤシディー教徒に水や食糧を投下するのです。 イラクでは、アメリカが8日にイスラム国に対して限定的な空爆を開始しました。イギリスも人道支援目的の物資投下を始めています。オーストラリアはこれに参加する形ですが、アボット首相とジョンストン国防相はともに、今後、軍事攻撃に関与する可能性について否定も肯定もしませんでした。 イラクは今、イスラム教シーア派主導の政権側に対して、同スンニ派のイスラム国が激しい攻撃を展開、北部を中心に国土のおよそ3分の1を支配したとの報道も出ています。混乱に乗じて北部の油田を制圧したクルド人勢力も含め三つ巴の様相を見せています。先行きが全く見通せない中で輸送機派遣を決めたことで、オーストラリアは今後、アメリカ、イギリスとともに泥沼から抜け出せなくなる懸念があります。野党陣営からは「政府の計画と意図を完全に透明にするべきだ」(ボーウェン議員)との声も出ています。 ■戦争の当事者として見過ごせない オーストラリア(人口約2,300万人)の国土は日本の約20倍の広さありますが、軍は陸・海・空合わせて正規兵約5万8,000人、予備役約2万人しかいません。専守防衛の日本の自衛隊(自衛官約24万8,000人、予備自衛官約4万8,000人)と比べても小規模です。そのオーストラリアが、遠い中東の紛争に積極的に関わる背景には何があるのでしょうか。