イチローの振り子打法の元祖論争に決着!
――あっさりと答えが出ました(笑)。 「でも単なる物マネではダメなんです。最初は試合でも変化球に対応できず空振りしていたんですが、自分なりにアレンジをしていくうちに、どんどん良くなってきたんです。そのうち変化球をヒットにできるようになってきました。モノにでき始めたのが、3年の秋から4年のシーズンですから明らかにイチローが先なんです」 ――なのに、なぜ「坪井が先」という説が出たんですかね? 「阪神時代にイチローと僕の振り子打法の比較をされることが多かったんです。阪神特有の関西マスコミに、そのことばかりを聞かれるので、僕もいい加減、面倒になっていて、ある時、『もう、その話は、そろそろ終わりにしませんか? 僕は僕でオリジナルを追求して精一杯にやっているんですから、もうその話はいいでしょう』というニュアンスの話をしたんです。よほど他に記事がなかったのかしりませんが(笑)、その話がどう解釈されたのか『振り子は俺が先』という記事になってしまったんですよ」 ――当事者のイチローとは同級生で親友ですよね。彼は、このことになんと? 「当時は『何言ってんだ、こいつ、頭おかしいんじゃないか?ふざけんなよ!』と思っていたらしいんです(笑)。何年後かに凄く仲良くなってからイチローに言われたんですよ。『そう言えば、振り子打法っておまえが先らしいな(笑)』と。僕は、今みたいに『関西独特のマスコミに乗せられただけで言うわけはないだろう』と説明したんですが、今でも一緒に飯を食っていると、年に一度は、この話題が僕らの間の定番のネタとして出ます(笑)。『そう言えば、おまえが先なんだって?(笑)』と。そこでムネ(川崎宗則)が『坪井さん!そうなんですか?(笑)』と聞き返すのがパターンのネタです(笑)」
――目に浮かびそうな小芝居ですね(笑)。それでもイチローの振り子打法は、簡単に真似などできない代物です。 「まったく新しいことを始めたわけですから何度も壁にぶちあたりました。まるで修行僧のようにバットを振りました。イチローの映像も穴が空くほど見ましたが、DVDを見てイチローのコピーをして修正してもうまくいかないんです。つまりイチローのやっている振り子は、僕には無理だったんです。これは不思議ですが、最後の最後までそうでした。いろんなことを試しましたが、彼の完全コピーが、しっくりきたことは一度もありません。自分なりにアレンジして、オリジナルなものに改良していきました」 ――振り子打法の大事な点は? 「自分のなかでは下半身だと思っていました。下が弱るとバットスイングがぶれます。だから打ち込んだし走りこみましたね。バットを振る量と同じくらいに下半身を鍛えました」 ――チェックポイントはありましたか? 「チェックポイントは、ひとつ、多くても、ふたつまで。そこが多くなると頭でっかちとなってしまいます。例えば、右足を上げるときに膝が割れないように我慢しよう!とか、ワンポイントだけを。それは下半身のときもあれば上半身のときもあります。基本的には、真っ直ぐのタイミングで待っていました。露骨にスライダーがわかっているときは、それを待って逆に真っ直ぐには、詰まってレフト前、三遊間でOKというバッティングスタイルでした。変化球のタイミングで待つとボールを見すぎてしまう癖がありました。そうなると、少し差し込まれてしまいます。ショートがセカンドベースに寄っている守備位置のときは、それでいいんですが、変化球を見すぎて逆方向に打つと、サードゴロになるケースが多かったんです。それは、もったいないので三遊間の空いたところへ打つんです」 ――振り子打法の欠点は? 「足元を狙われるのがきつかったですね。長い時間、足を上げていますから、やはりボールを避ける動作は遅れます。足の甲にカットボールが当たって骨折したこともありました。僕がピッチャーならこう攻めるだろうと考えると、弱点はインコースのカットボールしかありません。またランナーがいなくともクイックなどで投球のリズムを変えてくるピッチャーも少なくありませんでした。相手は、なんとか崩そうと露骨なことをしてきます。ただ、それは想定していました」