イチローの振り子打法の元祖論争に決着!
――確かにリスクの多い打法です。 「阪神時代には、監督の野村(克也)さんに『なんであんな難しい打法をするんや。1本足で立つより2本足で立つ方がバランスがいいに決まっている』というコメントが新聞に載ったことがありました。でも、長い時間をかけて、この打法を作りあげてきた歴史が自分にはありました。簡単に変えることはできませんでした」 ――イチローは、もちろん、振り子打法は高打率を生み出しました。ルーキーイヤーに.327、日ハムに移籍後、1年目の03年に.330。NPBでのプロ14年の通算打率は.292と高いものです。高打率をキープする秘訣は? 「スランプになる前にそれを感じることです。例えヒットやホームランを打っても『嫌な風が吹いてきたな』と感じることがあります。スランプになってからでは遅いんです。それに気づけるかどうかが大事だと考えていて、僕は、それに関しては敏感でした。例えば、テイクバックから打ちにいくとき、ヒットになるものはなんとなくわかります。それが考えていた打球と方向が違っていたり、詰まっていないはずが、ちょっと詰まってヒットになったりすると、あれ?と思うんです。ちょっと風邪を引いただけで関節が緩み、バッティングの感覚が狂います。それくらい繊細なもので体調管理も重要でした。逆に、そのインパクトに向かう間の感覚で、『あかん!』と打つ前から凡打になることもわかります。イチローは、おそらくそこで感知すると、ファウルや空振りにできるんでしょうが、僕は振ってしまいます。バットに当たると凡打になってしまいます」 ――その「あかん!」というボールをファウルにできれば、さらに高打率が可能でしたか? 「僕は.330が最高ですが、そのとき、これ以上は打てる気がしませんでした。.330以上となると、9打席で3本です。.280から.300へ行く壁も厚く難しいものですが、.330以上の差はとてつもなく大きい。イチローの領域の感覚はわかりませんね」 ――最終的には2人共に振り子はやめてしまいました。 「イチローもメジャーで振り子をやめましたが、シンプルにしたかったんじゃないでしょうか。アメリカの投手のほとんどがゆったりしたタイミングでは投げてこないので振り子では間に合いません。僕はアメリカに行く前にやめたんですが、シンプルにしたかったのが理由です。バッティングの究極は、そこですから」 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)