元X・TAIJI 没後10年 ロックミュージシャンの非業の死を振り返る
その後長年にわたって、赤塚さんは不審死を追及する。事件の際、マネージャーのA氏がTAIJIさんのふりをして彼女に「なりすましメール」(後日A氏も認めた)を送り、A氏へ金を振り込ませようとしたことも発覚。赤塚さんはA氏を「詐欺未遂」で刑事告訴した。そこで、不可解な死をあらためて取材。北マリアナ検事局犯罪課主任のプレストリー氏に「首に索条痕がなかったという証言がある」と伝えると、目を丸くして驚き、神妙な顔に。さらに「拘置所内で自殺は可能なのか」と問いただしたところ、「通常はありえない、理解できないことだ」と深いため息をつき、首を横に振ったのだった。 またFBIの事件報告書を閲覧。機内暴行の詳細が記されていたが、サイパン在住のA氏との口論が原因とあった。赤の他人のふりをしていたA氏であったが、もしもその場で当局をとりなしていれば、大事にいたらなかったのではないかとも思われる。地元警察に当たるデパートメント・オブ・パブリック・セーフティ(DPS)の報告書には、当初の報道とは違って「ベッドのシーツで首つり自殺」などという記述はなく、なぜ意識不明になったのかは明らかにされていない。TAIJIさんの死は謎のまま葬られてしまったのである。
ススペ地区にあるDPSへ何度も足を運んだが、裏手にある古い刑務所が問題の場所だった。すぐ東にはヤシの木が生い茂る白い砂浜がある。鉄格子で囲まれた部屋には、うだるような熱がこもっていた。激しいスコールが降ったあと、雑草が足に絡みついた。捨て置かれたこの地で、TAIJIさんは何を思い、何を感じたのだろうか――。赤塚さんが語る。 赤塚友美さん:あのとき検死されなかったことが一番の問題ではないかと思います。サイパンに何度も行ったり、行政に働きかけたりしましたが、謎は解明できませんでした。それがきっかけでサイパンのみならず、日本も検死が行われるケースが極端に少ない「死因不明社会」だということがわかり、いまは法医学推進の運動を応援しています。そして途中、本を執筆し、思い出の一コマ一コマを巡りながら、ようやくTAIJIさんが亡くなったことを実感できるようになりました。 命の長さは誰が決めるのか、運命というものはあるのか、わからない。赤塚さんが抱くTAIJIさんの残像には、優しさがあふれている。 赤塚友美さん:私は長年クラシックバレエをやっていて、バレエ団でバレリーナをしていました。TAIJIさんとはライブで知り合いましたが、もともと私自身はロックと無縁の生活。TAIJIさんは当初から口数が少なくて、私もゆっくりとしたペースなので、お互い会話が弾むような感じではなかったんですけど、第一印象で感じたのは彼の優しさでした。外見は長髪でタトゥー、典型的なロックミュージシャンなんですけど、態度や話し方がとても穏やかで、相手を気づかう人なんだなと好感を持ちました。 TAIJIさんは彼女の世界クラシックバレエにも興味を持ち、ジャンルは違えども表現者としての共感がふたりを結びつけた。激しいステージプレーとは裏腹に、彼は静かで平和な日常を心の底から愛していたようだ。ゆるやかな美しい旋律もロックなんだ、と教えてくれたという。 赤塚友美さん:亡くなり方がいろいろあって私もつらかったですけど、TAIJIさんは、のびのびと空にいる感じがして、自由に音楽でもやっているのかなって感じています。 ロックミュージシャンとして非凡な才能を見事なまでに表現したTAIJIさん。いまはもう振り返ることしかできないが、スタイリッシュな彼の姿はファンの記憶に生き続けている。