「顧客志向」や「社会貢献」が従業員エンゲージメントの重要なドライバーに――、クアルトリクス調査
クアルトリクス合同会社は12日、年次レポートとなる「2025年消費者トレンドレポート」および「2025年従業員エクスペリエンストレンドレポート」を発表し、その内容について説明会を開催した。 【画像】5つの消費者トレンド ■ 消費者の期待の高まりがロイヤルティの低下へ まず、消費者トレンドレポートは、2021年から継続して行われており、今年は23の国と地域における2万3730人の消費者を対象に調査した。調査対象の業界は20にわたり、日本からの回答は1199人だった。 クアルトリクス XMストラテジー シニアディレクターの久崎智子氏は、2025年に向けての消費者トレンドとして、「エクスペリエンスへの期待の高まりがロイヤルティの低下を招いていること」「消費者との関係の基本に立ち返るべきであること」「フィードバックが最低レベルに落ち込んでいること」「AIに対し期待過剰から懐疑的な見方になってきていること」「消費者が求めているのはプライバシーとパーソナライゼーションであること」の5点を挙げた。 エクスペリエンスへの期待の高まりがロイヤルティ低下を招いているとはどういうことなのか。久崎氏は、「AIやDXの採用が進んでいることで、消費者の期待がこれまで以上に高まっている。そのため、期待と実際に受けるサービスとの間に差を感じるようになっている」と説明する。 調査では、良くない体験をした後に支出を控える日本の消費者の割合が50%にのぼることが明らかになった。良くない体験の要因として国内で最も多かったのは、「従業員の応対」で54%だった。また、「サービス提供に関する問題」は36%で、「価格に関する懸念」は19%だった。 このことから久崎氏は、「企業は消費者との関係の基本に立ち返り、期待を正確に理解できるよう努めてもらいたい。価格や商品にフォーカスすることも重要だが、それと同じくらい従業員と顧客とのやり取りに注力するべきだろう」としている。 一方で、消費者からのフィードバックはこれまで以上に得られにくくなっているという。久崎氏によると、悪い体験をした場合、「企業に直接フィードバックを送る」と回答した人は9%で、2021年より5.4ポイント減少した。「友人や家族に話す」との回答は37%で、これも2021年より0.6ポイント減少している。それが、「誰にも話さない」との回答は52%にのぼり、2021年より7ポイント増加したというのだ。 そこで久崎氏は、さまざまなデータを活用して顧客の声を吸い上げることを提案している。「顧客が発信している情報や購買データ、コールセンターなどの接点における反応データなど、さまざまなチャネルから得られる情報を集約して分析することで、サイレントマジョリティと呼ばれる反応の見えにくい顧客の声も把握し、ビジネスの改善につなげてもらいたい」と久崎氏は述べている。 AIに対しては、「消費者の肯定的な感情が低下している」と久崎氏。企業が責任を持ってAIを使用していると考える消費者はわずか10%で、主な懸念点としては、「インタラクションの質が悪い」との回答が48%、「個人情報の利用」が47%と、いずれも半数近くにのぼった。 久崎氏は、「今日の消費者はプライバシーとパーソナライゼーションを求めている」と話す。消費者の37%が、自身のニーズや希望に合う体験を提供する企業を選択すると回答している一方で、30%は個人情報が適切に管理されているかどうか懸念を抱いているためだ。「パーソナライゼーションは差別化につながるものの、個人情報は慎重に扱うべきだ」と久崎氏は述べている。 ■ 従業員のエンゲージメントを向上させるには 一方、従業員エクスペリエンストレンドレポートは、22の国と地域における約3万5000人を対象に調査。日本の回答者は2077人だった。 クアルトリクス 顧問・XMエバンジェリストの市川幹人氏は、2025年に向けた従業員エクスペリエンスの課題として、「効果的な顧客対応を実現できる環境が求められていること」「若い従業員の継続勤務意向が低水準にあること」「採用体験と退職体験に改善の余地があること」「目先の利益を追求すると従業員の信頼を失うこと」「AIの組織的な導入が急務であること」を挙げた。 市川氏によると、従業員のエンゲージメントを高めるドライバーとなっているのは、「社会への自社の貢献に対する誇り」が49%、「より良い顧客サービス提案の奨励」が47%、「顧客ニーズに応えられる業務プロセス」が51%だったという。このことから市川氏は、「顧客志向や社会貢献が推奨されるような組織において、従業員のエンゲージメントが高まる傾向がある」としている。 今回の調査では、18歳から24歳の若手従業員が意欲的でやる気があることが明らかになった一方で、3年以上継続して在籍する意向はほかの年代より低水準であることがわかった。継続勤務意向に影響を与える要因は、キャリア開発のチャンスや自社のバリューに対する共感などとなっていることから、市川氏は「前向きな若手従業員をしっかり定着させるよう、キャリア開発につながるような議論をしてもらいたい」と述べている。 入社時と退職時の体験については、期待を下回ると感じた人の割合が高い結果となった。市川氏は、「入り口と出口は優秀な人材を確保するためにも重要だ」としており、「ブランドイメージの形成という観点からも、採用と退職の体験にしっかり取り組む必要がある」と語った。 また市川氏は、「経営陣が目先の利益を追求すると、従業員の長期的な信頼を失うことになる」とも述べている。日本では、リーダーが目先の利益よりも従業員のウェルビーイングを優先すると考える従業員はわずか29%で、世界平均(56%)のほぼ半分にとどまっている。 そこで市川氏は、信頼感を築くために重要な要素として、従業員の声に対処することや、多様な意見を受け入れること、オープンコミュニケーションなどを挙げる。「経営陣が従業員の声を聞き、それに対して具体的な行動を起こすことが信頼感の構築につながる」と市川氏は語る。 業務でのAI活用については、使用頻度が「毎日」または「毎週」との回答が日本では24%で、世界平均の45%を大幅に下回った。市川氏は、「AIの導入や活用が進んでいないのは、企業における従業員向けのトレーニングやサポートが不十分であることも背景だ」としており、「AI活用を促進させるべく、まずは企業がAI利用の戦略や方針を決め、従業員をサポートする必要がある」と述べた。
クラウド Watch,藤本 京子