「自分が母親と精子から生まれている感覚。“提供者”に会いたい」 AID(非配偶者間人工授精)で生まれた女性の苦悩 “出自を知る権利”に法整備の壁も
■自身の体験から、国内初「非匿名ドナー限定精子バンク」の取り組み
そんな中、国内初の“非匿名ドナー”限定の精子バンクが誕生した。「プライベートケアクリニック東京」では、年内に患者へ精子提供することを目標に、50人以上の応募者に対して面談と適性検査を実施している。 同院で不妊カウンセラーを務める伊藤ひろみ氏(41)は、自らのAIDでの出産経験からこの精子バンクを立ち上げた。夫が無精子症のため、デンマークの精子バンクを利用し、非匿名ドナーからの精子提供で子どもを2人出産。娘(8)と息子(5)には、日常的に出自について告知している。 イギリスでの治療を通して、「子どもが18歳になった時、ドナーの身元を知ることができる仕組み」での精子提供を得た。「医療機関でのカウンセリングを通して、親になる準備や告知の助言を受けながら治療できた。子どもにも早期に伝えられる自信を持てたので、この仕組みを日本にも導入したいと考えている」。
子どもへの告知は、どのようにしているのか。「最初は2歳のころ、絵本で『パパには“赤ちゃんの種”がなかったが、親切な人が助けてくれた』と伝えた。その後も、家族についてのテレビを見た時や、母親が2人いる家庭と遊ぶ機会などに、『あなたと同じように、他の人に助けてもらった家族がある』と話すことで、関心や理解は深まっている」と明かす。 同クリニックへの応募者の志望動機には、「子どもの頃、両親の子供の頃の話などを聞いて、アイデンティティー形成に役立った。提供者の開示に賛成」といったものがある。ドナーとの向き合い方として伊藤氏は、「子どもと会うことは義務にはしていないが、基本的には連絡先や氏名の開示に同意した人に登録してもらっている。“開示を決めた提供者は意向を覆せない”のが本来あるべき姿で、海外の“非匿名”もそうだ。事前登録時の説明や、継続した関係性づくりが重要となる」との考えを述べた。
■匿名であるべき?“出自の権利”法整備の壁も
検討が進められている特定生殖補助医療法の要綱案では出自を知る権利について、子どもが成人になった際に、国立成育医療研究センターにおいて情報を100年保存する、ドナーを特定しない情報を開示する(身長・血液型・年齢などを想定)、ドナーの特定につながる情報は本人に意向確認して同意が得られれば開示する、といった内容が盛り込まれている。 石塚さんは、この案を「子どもの“出自を知る権利”だとは思っていない」と指摘する。「権利と言うのであれば、子ども主体で『どの情報まで知りたいのか』『そもそも知りたいか、知りたくないか』を選ばせてほしい。身長・血液型・年齢の3項目以上の情報が18歳以上になれば開示請求できるとしても、提供者が嫌なら何も開示されない。提供者に選択権がある状態で、子どもの権利を保障したと言えるのか」。 その上で、「このたたき台が通ってほしいとは思っていない。そもそも開示できない人は、提供者にならないでほしい。厳しいことを言うが、開示すると提供者が集まらないのであればやめたほうがいい」との考えを述べた。