宇佐美を号泣させたガンバ愛
優勝を告げる主審のホイッスルが鳴り響いた瞬間、ベンチにいたリザーブの選手たちが狂喜乱舞しながらピッチへなだれ込んでいった。しかし、歓喜の輪の中に宇佐美はいなかった。 「走れなかったんですよ。ぼやけて、前を見ることができなかったので」。 表彰式を終えると、実際に手にしたタイトルの価値と重みが視界不良となった原因を取り除いてくれた。涙が乾いた宇佐美の表情には精悍さと、2位につけるJ1、ベスト4に進んでいる天皇杯を合わせた三冠を唯一狙えるチームの主軸としての決意や責任感がみなぎっていた。 「ナビスコのタイトルを獲ったからこそ、あと2つという気持ちがある。今日はかけがいのない経験をしたというか、僕も(大森)晃太郎もそうですけど、育ててもらったチームにタイトルを返すのはなかなかできることではないですよね。僕自身もゴールを狙っていましたけど、ああいう形で得点を生み出すプレーは絶対にしたいというか、しないといけないという気持ちでした。0対2から3対2というのはなかなかできないし、それをチーム全員でできたというのは確実に僕たちの力がついてきたからだと思う。同点にしてからはいろいろな形でチャンスを作り、あと一歩という場面が何度もあった。これを続けていけば勝てると、僕だけでなく全員が感じていたのかなと」。 日本代表の国際Aマッチ開催に伴い、J1は2週間中断する。再開される22日は同じ埼玉スタジアムで、J1の首位を走る浦和レッズとの直接対決が組まれている。勝ち点は5。勝てば9シーズンぶりのリーグ制覇へ望みをつなぎ、負ければ眼前で優勝を決められる。まさに天王山となる一戦へ、大逆転でのタイトル奪取は最高の弾みをつけた。 「打ち合うこともできますし、最初から手堅くいくこもできますよ」。 J2から復帰を果たした今シーズン。開幕直後こそ出遅れたが、負傷で戦線を離れていた宇佐美が復帰を果たし、心身のコンディションがフィットするごとにガンバも上昇曲線を描いてきた。高まるムードと逆転での三冠達成への手応えが、帰りのバスに乗り込む宇佐美を饒舌にしていた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)