女性たちに勇気を与える、朝ドラ 『虎に翼』。「スンッ」とするのは美徳なんかではありません!
女性には参政権がなかった時代に日本初の女性弁護士となり、のちに裁判官になった三淵嘉子さんをモデルにした連続テレビ小説『虎に翼』。女性差別が色濃い中、男性ばかりの法曹界に飛び込んだ彼女の半生を描いたドラマに、勇気をもらっている人も多いはず。心折れそうになる現実に、私たちはどう立ち向かっていけばいいのかを教えてくれる物語にもなっています。観る者の心を揺さぶる『虎に翼』の魅力を深掘りします。 【画像】主人公の夫・佐田優三を演じる中野太賀。©️文藝春秋
朝ドラ=男性優位社会下で生きてきた女性たちの物語
『虎に翼』から再び朝ドラを観始めたという方、おかえりなさい! 初めて視聴習慣ができたという方、いらっしゃい! ようこそ朝ドラの世界へ。 本作について「フェミニズムドラマ」という見方や、語られ方をたくさんされていますが、言わせていただきます。朝ドラって、ずっとそういうものなんです! 朝ドラ=家父長制と男性優位社会下で生きてきた数多の女性たちの物語といっても過言ではありません! 本作が特別ということはなく、これまでも多くの作品で女性や少数派の人々の生きづらさや、それを強いる社会を描いてきています。近年は男性が主人公の作品もありますが、基本的に朝ドラは女性が主人公。女性が夢を持って自分らしく生きる姿を描く作品群に、フェミニズムの精神が息づいていないわけがないんです。
タイトル・サブタイトルで伝統的な男女観をぶっ飛ばす!
ただ本作にはその精神を明確に伝えようとする、確固たる意欲を感じます。その表明は、サブタイトルにあり! 朝ドラは週の内容をあらわすサブタイトルも注目のポイントです。『カーネーション』ではタイトルになぞらえて、サブタイトルはすべて花言葉で統一(最終週はカーネーションの花言葉という抜かりなさ)、パティシエを目指す女性が主人公だった『まれ』はその週に登場するお菓子の名前入り、故郷の沖縄料理に夢をかける女性が主人公の物語『ちむどんどん』は沖縄料理や特産物の名前入り、『ちりとてちん』と『ごちそうさん』はダジャレを駆使したサブタイトルで内容を伝えていました。 本作のサブタイトルは、第1週の「女賢しくて牛売り損なう?」に始まり、「女三人寄ればかしましい?」「女は三界に家なし?」と、女性にまつわることわざや慣用句を疑問形にしたもの。同じく弁護士を目指す女性が主人公の朝ドラ『ひまわり』も「出るクイは打たれるの?」など、ことわざに疑問符をつけていたので、本作も受け継いでいることがわかります。 『ひまわり』との差異として挙げられるのは「女性」にまつわる言葉のみをピックアップしていること。毎週のサブタイトルをみていくと、女性に関する格言はなぜか女性を侮蔑するようなものが目立つことがわかってきます。 古くから言い伝えられてきことわざには伝統的な男らしさ・女らしさが如実に表れています。男にとって大切なのは勇気や決断力であるとされているものが多いのに対して、女にとって大切なものは男を元気づける愛嬌だとされているものばかり。男は威勢が良く堂々としている姿が好まれ、女は美しくおしとやかで、控えめが好まれる。現代の感覚からは「はて?」ですよね。『虎に翼』のサブタイトルは、本作は「だから女は……」と語られる言葉を一つひとつ検証し、そこに性差は関係ないことを示してくれています。 タイトルであり慣用句の「虎に翼」は強い者に一層の強さが加わり、勢いが増すことを喩えた言葉。「弁慶に薙刀」と同様の意味であり、男性に対してイメージしやすい言葉です。それを、女性が主人公の作品のタイトルにつけて仕上げる。もうそれだけで支持するに値するのではないでしょうか。