空間で活きる家具の在り方とは。「DAFT about DRAFT」デザイナー山下泰樹に聞いた
製品の中にはソファ、アームチェアなどのシーティングファニチャーが多いが、デザインする際に意識するのは、その人がどんな暮らしをし、その家具をどのように使うか、ストーリーを設定することだという。 「たとえば別荘の設計を依頼されたとします。山間という立地で、読書が好きな施主であれば、窓から見える景色を楽しみながら本を読むなど、家具単体でなく、暮らしのシーンをイメージしてデザインします」
そんな山下は自身を舞台監督のように捉えている。建築とは舞台であり、そこで展開される幾ばくかのシーンを綴った脚本でもある。その中に登場する人物像に寄り添う家具で、人となりを語る。こうしたアプローチは、施主の暮らしに合わせた家具をデザインする個人邸の場合でも、ホテルや商業施設でも同じだという。 たとえば見本市でも展示した寝椅子のようなソファ「POND-01」は、女性が横たわる姿をイメージして作られた。背もたれの緩やかな傾きがくつろぎやすさを与えるだけでなく、背面の流線形が優美なソファは、そのデザインがおのずと体を預けるポジションに仕向けてくれるようだ。「家具のディテールひとつひとつに、記憶に残るような存在感をもたせたいんです」ーー記憶の中のフランスの肖像画で、歴史上の女性たちが椅子に身を預ける姿が、ふと思い浮かぶ。 「家具を空間から切り離してオブジェとして捉えるのではなく、インテリアと連動する関係をつくりたいんです」 家具とインテリアのつながりの重要性は歴史的に見ても明らかだ。17世紀や18世紀の室内で描かれた肖像画を見れば、インテリア装飾と家具、そして人物が身につけているファッションのすべてが、バロックやロココといった様式で統一されていることに気づく。人にとって、空間をひとつの様式で構成することが、心地よさにつながるのだろう。
今秋、発売予定の新作チェア「No.15」。日本の工場にデザインを持っていくと、「こんな挑戦は長らくしてこなかった」という声も上がるという。ものづくりの現場がアジアにシフトし、日本において卓越した技術が消えてしまうことへの危機感から、国内での生産にも取り組んでいる。