若者の自己肯定感を上げたい~デコ棺桶デザイナーが「入棺体験」で伝えたいこととは
「仮の死」体験が、これからの人生を考えるきっかけに
以前から、若者の希死念慮の強さを憂いていた布施さん。自身も幼少期より希死念慮を抱いていたことから、入棺体験の感想に触れるたびに、「この活動を通して、皆の人生そのものを肯定し、生きづらい世の中を生きやすくしたい」と思いが強まっている。 希死念慮を持つ子どもや若者が増えている理由の一つに、「死を語るのを避けている」ことが挙げられる、と布施さんは話す。「死にたい」と言うと、周りはそんなこと言うなんてと怒ったり、命は大切にすべきだと諭したりして悪気なく論点をすり替えているが、本来はその人の「死にたいと思う気持ち」と向き合い、ひも解かなければならないはず。皆が死を遠ざけ、話さないようにした結果、死がファンタジーなものになり、憧れすら抱く子どももいるという。 「今年から始まる内閣府と大学の研究で裏付けしてもらう予定ですが、入棺体験で死を敢えて感じ、考える機会を設けることで、自己肯定感を高め希死念慮を軽減できると考えています。そのためには、ネガティブな感情に支配されている人でも『入ってみたい』と思えるような、気分が上がる棺桶が必要。私の棺桶が存在する意義は、ここにあるのだと実感しています」 企業での研修にも、もっと注力したいと考えている。グループやチームで入棺体験を行うと、自己肯定感が上がったり、夢や希望を思い出したりするのはもちろん、他のメンバーの弔辞を聞くことでメンバー理解が深まり、チームワークが高まるという効果もある。実際、研修を受けた人からは「死を考えることでこれからのキャリアを見つめ直すことができた」「新しいことにチャレンジする気持ちになった」「頼れそうな人を見つけることができ、同時に周りを全く頼ろうとしていなかった自分にも気づいた」などの声が挙がっている。 「自分の夢や希望を思い出し、目標に向かってイキイキと突き進める若者を増やすためにも、入棺体験を広めたいし、死をもっと自然に語れるような雰囲気を生み出したい。そんな未来をつくるために、この『可愛い棺桶』を軸にさまざまな方法でアプローチを続けていきたいと考えています」
【布施美佳子さん プロフィール】 棺桶デザイナー。文化服装学院卒業後、アパレル会社のデザイナーを経て、1999年に大手玩具メーカー入社。アパレル事業部の新規開発担当としてガールズブリーフなどをヒットさせる。関連会社出稿時の2015年、フューネラルグッズブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ、可愛く華やかな骨壺や死装束を企画する。2021年に独立し、オリジナルの棺桶づくりをスタート。現在、アトリエやイベント会場での入棺体験や、入棺体験を交えた企業研修などを展開している。 「GRAVE TOKYO」インスタグラム https://www.instagram.com/mikera1973/
EDIT&WRITING:伊藤理子