「向上心」と「怠け心」どちらが人間の自然な姿か?~何を「サボること」に魅力を感じるか実験で検証~
4つ目は「全体の手続きの簡単さ」をアピールしたもので、「オンライン3STEPで口座開設が可能」というメッセージが書かれていました。 つまり、次の4つの条件を試したことになります。 ①商品購入ページへのリンクを直接貼る(購入手続きが簡単になることを強調) ②「まず始めるならこの投資信託で!」(商品選択が簡単になることを強調) ③「一度始めればあとはほったらかしでも!?」(今後の行動が簡単であることを強調)
④「オンライン3STEPで口座開設が可能」(全体の手続きが簡単であることを強調) ■最も効果的だったのは? 結果は、配信したメールに貼られたリンクのクリック率も、2カ月後の積立設定額も、最も高かったのは「一度始めればあとはほったらかしでも!?」という3つ目のメッセージでした。 今始めれば今後はほったらかしでもいい、つまり、「今少しコストをかけて決めてしまえば、将来の努力から解放される」というメッセージが最も人を惹きつけたのです。
「リンクをクリックするだけ」や「商品を選択しなくていい」という短期的な行動の省略よりも、「今後何もしなくてよい」という長期の行動の省略が人を動かしたというのは、非常に面白い結果ではないでしょうか。 この結果から、人間はできることなら努力したくない生き物だといえるのかもしれません。もしそうであるならば、「ラクにしてあげる」介入、つまり選択や行動にかかるコストを最小化してあげるような介入は、効果的に働く可能性があります。
この性質をうまく利用しているのが「ナッジ」です。 今回紹介した実験のように、選択の余地は残したまま、望ましい選択に誘導するという介入の仕方は「ナッジ」と呼ばれています。「ナッジ」とは「ひじでそっとつつく」という意味で、強制するのではなく、よりよい選択肢を「ナッジ」して気付かせてあげようという発想に基づいています。 ■強制せずに人を動かす ナッジは2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞して以降、政府や自治体・企業の取り組みとして注目を集めてきました。