【バイク・インプレ】BMW「R 1300 GS」|R1250GSから見た目も性能も大幅に進化!
どんな道であろうとも、快適に遠くまで旅ができる懐の深さ
そもそも、「GSとはなんぞや」という方もいらっしゃると思うので、まずは少しだけ触れておくと、BMWのGSとはG:ゲレンデ、S:シュトラッセを掛け合わせた言葉だ。ゲレンデとは不整地、未舗装路、草原、砂地、土漠などを指し、一方のシュトラッセとは「道」、すなわち舗装路のことを指す。つまりは地球上のあらゆる場所を走れるバイクということだ。初代GSは1980年に発売された「R80G/S」で、これはGとSの間に/が入っていたことで、俗にスラッシュなどと呼ばれる。 【写真はこちら】「R 1300 GS」の全体・各部・走行シーン(21枚) そんなGSシリーズはエンジンバリエーションも豊富。単気筒、水平対向2気筒、並列2気筒とあり、排気量も310ccから1300ccまでさまざま。主流となる水平対向(Rシリーズ)モデルは1000cc、1100cc、1200cc、1250cc……と、34年の歴史とともに排気量は大きく、エンジンは空油冷から空水冷へと進化してきた。そして2023年はBMWがちょうど創業から100周年にあたる記念の年だったことから、そこに合わせてこのR1300GSが披露されたわけだ。 それまでフレームはスチール鋼管パイプだったものを角型鋼板に変え、リアフレームはなんとアルミのダイキャスト製に。完全新設計のエンジンは単体で3.9kgの軽量化を実現。欧州モデルでは1250GGSよりも12kgも軽い237kgの車重を達成し、車高を30mm下げるアダプティブビークルハイトコントロールや、前走車との車間を自動で調整するアクティブクルーズコントロールを搭載するなど、完全なフルモデルチェンジといえるものになっている。 1990年代の1100、1150は実に大柄で、日本人では乗りこなせないほどの車格だった。それが不評だったのか1200でややスリムになり、2013年に空油冷から空水冷に変った段階で大きく進化。さらなるスリム、軽量化が図られたが1300になり、それはさらに加速。排気量の拡大でパワーもトルクも上がったのに、車体は167cmの筆者が乗ってもコンパクトに感じるほど。筆者はR1250GSを所有しているから、両車の差はあきらかだ。 まず、停止状態から車体を起こすのが軽い。コンパクトになったといえ、その車格から考えれば拍子抜けしてしまうほどだ。跨ってみると、燃料タンクとカウル、スクリーンのボリューム感が前モデルの2割減といった印象。乗車姿勢で周囲の視界が広く、路面もよく見える。クラッチの軽さは同シリーズならではだが、街中のせわしないシフトチェンジもスパスパ決まりスムーズ。ハンドリングもどこかに違和感を覚えることなどなく、非常にナチュラルなもの。 今回試乗したモデルは、自動車高調整機能やアクティブクルーズコントロール(ACC)を搭載した、ツーリングモデルだ。高速道路では、電動スクリーンで風圧を自在に調整でき、ACCのおかげでライダーは車線の左右だけを注意していればいい。 ワインディングに入ると、その車体はさらに軽快感を増す。BMW独自のフロントサスペンション=テレレバーシステムが、コーナーリングでしなやかかつ剛性の高いグリップ感を生み、20年以上熟成されてきたABSは充分以上の減速性能を持つ。その上で、車体からライダーへはダイレクトな挙動が伝達され、路面の様子が逐一わかるほどだ。 このダイレクト感こそが進化したフレームとテレレバー、パラレバー(リアサス)が生み出すディメンションによるところなのだろう。足の長いアドベンチャーモデルでは前後のピッチング挙動が起きがちだが、このGSにはそれがほとんどない。試乗を始めて短時間の間に、ワインディングから狭路でのUターンまで、手足のように扱えてしまうようになることにも驚かされる。 高い剛性感、進化した電子制御システム、熟成された前後サスペンション、そして上質な各部の仕上げ……。筆者も所有する前モデルのR1250GSですら、すでに他の追従を許さないほどの性能を持つと思われたのに、BMWはこの1300でさらに他社を突き放した『快挙』を成し遂げた。そこから見えるのは、誰もがぱっと乗って乗りやすく、どんな道であろうとも快適に遠くまで旅できるという、BMWがGSで積み上げてきた歴史をさらに一歩進める、とんでもない懐の深さなのである。
ツーリング・バイク・バイブル編集部