保育園がアプリの子守唄で寝かしつけ…「いまの学校ってこうなの?」が満載の『スマホ育児が子どもを壊す』を尾木ママが読む(レビュー)
保育園・幼稚園から高校まで、順を追って、今の時代を生きる子どもを取り巻く社会問題全般を扱う本書は、刺激的な一冊だ。 200人以上の現場の先生に話を聞くという、その視野の広さと行動力にまず感心した。モヤモヤしていた違和感が可視化され、見取り図ができる。 現場では日常起きていることなので当事者の親や先生には知られている事象であっても、特に、子どもが身近にいない大人にとっては「いまの学校ってこうなの?」と、驚きのエピソード集になるだろう。専門家のリアルな声も入り、データの扱いなどにも目配りが利いている。 講演会などでさまざまな組織や企業を訪ねるが、「すぐやめてしまう」と、新入社員の扱いに困る上司の声を聞くことが増えた。たとえば、「お昼ご飯を買ってきて」とお金を渡したら出て行ってそのまま辞めてしまった、何を考えているかわからない、といった類だ。 親御さんからの相談の多くも同様で、わが子と価値観のギャップが大きすぎて、どうしたらその溝を埋められるか、というもの。スマホで何でも調べられる時代だから、親や祖父母世代の、年齢がものをいう経験知が、あまり説得力を持たなくなってきた。「ネットとお母さんの言っていることが違う」場合に、目の前のお母さんよりもスマホの言う方を正しいと思ってしまう。そもそも、大人自身が、大量の情報に振り回されていて子どもにうまく教えられない状況が背景にある。 本書では、寝かしつけに各々のスマホから流すアプリの子守唄を利用する保育園の例も紹介される。今や2歳児のインターネットの利用率は58・8%だとも。 多忙な大人が子育ての一部を外注化したり、スマホに委ねたりするのはある意味では必然だろう。使い勝手がよく、情報も瞬時・大量に与えてくれる肯定的な面はもちろん理解しつつ、急激な進展に伴う負の側面、特にスマホ依存は、きちんと受け止めて、家庭や学校に任せるのではなく、国や社会がどう扱うかを、議論し決断すべき一大局面に来ている。海外では青少年のスマホ・SNS利用を制限する国や自治体が続々と現れている。比して日本では、国にも社会にもその危機感が薄く、対策も全く後手に回っているのだ。 アプリの子守唄で眠る子どもたちは、コロナ禍を経て、どう育つのか。ネット社会のあり方を考えるための素材集として、いろんな人に読んでほしい。 [レビュアー]尾木直樹(教育評論家) (おぎ・なおき)1947年、滋賀県生まれ。法政大学名誉教授。臨床教育研究所「虹」所長。早稲田大学卒業後、22年間高校や中学で、その後22年間大学で教壇に立つ。「尾木ママ」の愛称で親しまれている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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