Tempalay、結成10年の軌跡を日本武道館に刻む 圧巻のパフォーマンスと映像演出で提示したバンドの真髄
この宇宙のどこかに存在する『惑星X』。まだ出会ったことのない音楽を探索するTempalayというバンドの意思そのものを表したようなライブタイトルだ。円谷プロダクション風の懐かしい告知ビジュアルに惑わされそうになるが、彼らと我々がいるのはまごうことなき2024年の10月3日である。昨年12月1日に「銀河系のどこかで開催」と、場所未定のままチケット販売を開始。その後、日本武道館であることを明らかにし、かなり早い段階で完売した。 【画像】Tempalay、大迫力のパフォーマンスを見せた日本武道館公演 その間、Tempalayはアルバム『((ika))』のリリースとツアーを開催した。小原綾斗(Vo,Gt)は本作をもってTempalayが終わる可能性もインタビューにて語っていたが、実際にはさらにバンドでの表現に欲が出たようである(※1)。発表から必ずしも直線的に1年弱を過ごしてきたわけではないことを想像すると、参加する側としても結成10周年、初の武道館というシンプルなお祝い気分とは少し違った気持ちになる。そこにTempalayというバンドの特異性に改めて気づいた公演でもあった。 場内の照明が点いたまま“離陸”の映像とナレーションが流れ、探索に旅立つ気分を増幅する。いきなりの暗転と共に起きたとてつもなく大きな歓声でその場の熱量を知る。ステージ上手から藤本夏樹(Dr)、榎元駿(Ba/ODD Foot Works)、松井泉(Perc)、OCHAN(Key,Gt/NIKO NIKO TAN TAN)、AAAMYYY(Syn,Vo)、そして前方センターに小原が並び、オープナーはSF的なアレンジで深度を増した「のめりこめ、震えろ。」。武道館の高さのあるステージ背景を活かし、最新鋭の映像と照明システムを駆使して破壊的な光量をぶちまけるPERIMETRONチーム。この曲の歌詞にあるように〈どうかしちゃったもん同士 I love you.〉なメッセージを容赦ない圧で演出する。そして、主にキックとスネア、ベースラインを強目にしたサウンドバランスが武道館という巨大な空間を合理的にダンスホールへ導く。 そのムードは「人造インゲン」「続・Austin Town」と続き、パーカッションがアフロからトライバルな体感を高める「とん」に接続。「ああ迷路」では小原がOCHANを紹介し、ギターソロをフィーチャー。さらに「未知との遭遇」から「my name is GREENMAN」では小原のロックの旨みたっぷりなギターソロをはじめ、榎元、泉のソロも盛り込み、序盤とは思えないクライマックスを見せた。バンドをはじめ、クリエイターチーム全員の剛腕と高らかな笑いが聞こえるようだった。 6曲演奏を終えたところのMCで小原がAAAMYYYの第二子懐妊というトピックに触れる。AAAMYYYの「昨日もう産まれそうだった」という報告にどよめくフロア。そこに急遽、助っ人としてermhoiと和久井沙良がサポートとして登場し、歓迎の拍手が起こる。小原が二人に感謝しつつ、「AAAMYYYが二人分を一人でやってることに驚いたけど」という本音に頷いたファンが多かったはず。 そこから小原がAAAMYYYの第一子誕生を祝って作った「Booorn!!」が演奏されたことで、序盤のエクストリームなムードは一転、温かいものに。ビジョンに映し出される胎児のエコー画面の演出も、祝福を分かちあうような空気を会場に生んだ。ライブアレンジでの「どうしよう」、レーザーが桃源郷に導くような効果を発揮した「Festival」。時空を超えて魂を解放することがフェスティバルの概念や歓びだとすれば、Tempalayは初期ナンバーからそれを体現しているとも言える。 穏やかに始まり、音の嵐にたどり着いた「カンガルーも考えている」、オーディエンスが好きなように楽しむライブだからこそ、〈ラッセーラ!〉と息が合うことでカタルシスが倍増する「大東京万博」、レトロなカラーリングの風景とオリエンタルな二胡の響きが“ここではないどこか”にトリップさせてくれる「今世紀最大の夢」と、このセクションは映像や照明を前面に出し、音への没入感を高めていた。 長めのインターバルの最中は強力な1本のレーザーが“宇宙船・武道館号”に乗り合わせた時間の推移を演出しているようで、シンプルだがいい効果を上げていた。そして強い曲と強い画を持つセクションに移っていく。オリエンタルなネオソウルというべき「脱衣麻雀」のブレイクでは破壊力満点な映像がブチ込まれ、続く「シンゴ」ではメンバーの顔が漫画にトランスフォームする演出も。パーカッションの専任メンバーがいることで、よりアフロビート的な体感が強まった「EDEN」は後半にいくに従ってセッション色を強め、「GHOST WORLD」も生身の演奏が際立った。受け取る情報量が膨大かつ独自で、瞬時に消化しきれないほどだ。 休憩から「ただいまー」と言いながら戻ってきたAAAMYYYに一際大きな拍手が起こる。ヘアスタイルや衣装をいじりながらサポートメンバーを紹介した後、10周年で武道館というベタなことをやっている、という小原の照れ隠しにもこの日は温かな拍手が送られた。 AAAMYYYが戻ってからのセクションは、最新作『((ika))』から聴かせるナンバー「預言者」。AAAMYYYの揺蕩うボーカルや小原が弾くストラトが落ち着いたムードを演出するが、〈BGMじゃないわ〉という歌詞とサウンドの対比が彼ららしい。続く「深海より」のサイケデリックなムードもただの雰囲気ものに終わらない。スローなBPMでじわじわ攻める演奏の胆力が、死生観すら匂わせるのだ。初期ナンバー「革命前夜」での藤本のビート感のビルドアップ、音数を絞り切っているからこそ屈強なリズムが際立つ「SONIC WAVE」、榎元の太いベースラインで生まれ変わった「新世代」が、さらにフロアを熱くしていく。「新世代」の予測可能な新しさをシニカルに伝える歌詞は、Tempalayの変わらない創作姿勢だと改めて思うのだった。 小原は「ここに立ってみて何を思うかというと、“やめなくて良かった”くらい。愛憎という言葉が一番しっくり来る10年だったと思います。ここまできたらやめるまでやろうかと。今日までの期間楽しくて、やめなくて良かったと思います」と、筆者が記憶している限り、最も素直な感想を聞いた気がする。 そこからは最新作のモードを全開にした3曲が続く。クワイヤのSE、豊かに上昇するメロディ、そして渾身のギターソロで驚くほどストレートな感謝が溢れた「愛憎しい」に始まり、「NEHAN」でも弾きまくる小原はどことなくプリンスにも少し似たカリスマを漂わせる。それは音楽的な引き出しの多さにも裏打ちされているのだが、パフォーマーとしても解放されているのだと思う。 「ドライブ・マイ・イデア」では全員のヒューマンパワーが横溢し、ラストは過去のライブでも締めくくりにセットされることの多い「そなちね」が鮮やかな音像で立ち上がった。もはやTempalayらしさのシグネーチャー的なギターサウンドも、小原とAAAMYYYの声の重なりもとことん美しい。このキャパで彼らのサイケデリアが細胞に染み渡る。ビジョンに映し出された小原は、見たことがないぐらい爽やかな表情をしていた。 自発的にスマホのバックライトを点けて揺らす人、拍手を続ける人、「アンコール」と声に出す人などアンコールのやり方も人それぞれだ。しばしののち、ステージに全員が戻り、MCなしでいきなり始まった「続・New York City」。照明がステージ左右を照らすとなんと総勢10名からなるゴスペルクワイヤが登場し、驚きの歓声と感激がマックスに達する。しかも小西遼もサックスで参加して、爆発的な生命力に自然と笑ってしまった。Tempalayのカオティックな世界のその先を予感したというと安直だが、音源でしか聴けなかったアレンジを生で体験したことで少しだけ新しい兆しを感じたのは確かだ。 そして、冒頭からカタルシス全開の「Last Dance」が2時間40分の音楽の旅を締め括った。PERIMETRONチームによる愛情いっぱいのエンドロールとともに。10周年を祝う気持ちより、武道館で今何を見せてくれるのか? にフォーカスしていた筆者の気持ちは、ごく自然にTempalayが今存在してくれている事実への感謝に変わっていた。 ※1 https://rollingstonejapan.com/articles/detail/41012
石角友香