20代息子が打ち明けた中学時代の性被害…責任追及に“壁” 母「誠実に対応してほしかったのに」
「記憶にふたをして過ごしてきた」-。福岡県の女性(58)は昨秋、20代の息子から中学時代に受けた性被害を打ち明けられた。加害者は信頼していたスポーツクラブの男性指導者だった。指導者は加害行為を認めたが、「時効」が壁となって刑事責任は問えず、民事上の賠償請求も難しい現実に直面している。声を上げられない子どもを狙った卑劣な行為は、被害者や家族を長く苦しめる。 旧ジャニーズ事務所を巡る性加害問題が取り沙汰されていた昨年秋、女性は、息子が昔通っていたソフトテニスクラブの指導者について、ママ友から聞いた話を思い出した。「以前、男子に手を出したらしいよ」 まさかと思いつつ、息子に「あんたはそんなことなかったよね」と尋ねた。「あるよ」。ショックのあまり、しばらく意味が理解できなかった。信頼していた指導者。息子も楽しんで練習していると思っていた。 息子によると、最初の被害は中学2年の時。送迎時に指導者が運転する車の助手席に座っていると、服の上から陰部を触られた。行為はエスカレートし、集合住宅の一室に連れて行かれ、衣服を脱がされ性的な行為をされるなど、中学卒業まで続いたという。 息子は記者の取材に「テニスができなくなってしまうと思い、誰にも言えなかった。行為の間は感情をなくして『何かされているのは自分の抜け殻だ』と思うようにしていた」と話した。指導者と背格好が似た人を見ると身を隠すようになり、今もフラッシュバックに苦しんでいるという。 女性と息子は弁護士に相談したが、指導者の行為は強制わいせつ罪の適用が考えられるものの、7年の公訴時効(昨年の法改正で12年に延長)が成立していること、証拠が残っていないことなどから「刑事、民事ともに責任を問うのは難しい」と言われた。加害者は今もクラブで指導を続けている。女性は本紙「あなたの特命取材班」宛てに「許せない」と思いを寄せた。 今年2月、記者は県内の指導者宅に向かう女性に同行し、取材した。 「なぜそんなことをしたのか」。詰め寄る女性に、初老の指導者は「謝るしかない」と行為を認めたものの「かわいかったけん」と言い訳するばかり。記者が「力関係があると分かっていて行為に及んだのではないか」と問うと、「力関係は考えたことがない。かわいかったちゅうのが先に走ってしまった」と答えた。 女性はその後、指導者に文書を送付。「息子が苦しんでいる事実をどう考えているか」などの問いに、回答はなかった。慰謝料の支払いについても、弁護士を通じて「既に(民事上の)消滅時効が完成している」との理由で拒否された。 このまま責任を追及すれば、被害に向き合い続けなければならず、息子をさらに苦しめることになってしまう。女性は「誠実に対応してほしかったのにかなわなかった。被害を受けた子や家族が深い傷を負い続ける現実を知ってほしい」と訴える。 (瓜生毬乃)