政府は外国人材受け入れ拡大に動く:移民に近い特定技能2号の大幅拡充を
移民受け入れを国民的議論に
日本で移民の受け入れが本格的に議論され始めたのは、少子化問題の深刻さが理解された2000年頃だ。2000年に小渕恵三首相の諮問機関が「多くの外国人が日本に暮らし、働きたいと思える移民政策をつくることが必要」と指摘した。また2008年の福田政権下では、自民党議員連盟が「人材開国 日本型移民政策」を提言した。 しかしその後は、中国や韓国との領土問題で国民感情が悪化し、また自民党では「保守派」を中心に移民反対論が勢いづいてしまい、移民受け入れ議論は後退していった。 2012年以降の第2次安倍政権は、「国際貢献」を名目とした技能実習制度を順次広げていった。そして2019年には新たな在留資格「特定技能」を創設し、家族帯同や永住にも道を開いたのである。 しかしながら、自民党内あるいは国民の間で移民反対の意見は根強いことから、政府は「移民政策ではない」との説明を続けている。そのため、外国人材の活用も思ったようには進んでこなかった面があるのではないか。 日本経済の活性化には、外国人材の積極活用は必要だ。今こそ、移民受け入れの議論を逃げずに真正面から取り上げ、国民的議論にすべきだろう。それを踏まえて、特定技能2号の大幅拡充、そして現在の実習生制度から特定技能1号、特定技能2号へと各制度の連携の流れを強化することで、質の高い外国人労働力を長期にわたって確保していく必要がある。 外国人に労働を奪われるとの懸念も国民の間でなお根強いとみられるが、外国人材を受け入れることで、経済の潜在力と将来の成長期待が高まり、それが企業の設備投資を促せば、経済全体の労働生産性が高まり、経済全体の実質賃金上昇率が高まるはずだ。つまり、外国人材受け入れによって、日本国民全体の生活が改善されるのである。 政府は、外国人との共生という社会的側面の制度設計、環境整備を進めることと並行して、外国人材の積極活用を進め、それを成長戦略の柱の一つに位置づけて欲しい。 (参考資料) 「特定技能 導入5年 拡大着々 外国人労働、受け入れの中心に」、2024年4月1日、中日新聞 「人口減と移民 「外国人1割社会」へ議論を」、2024年4月1日、京都新聞 「特定技能、公共交通も追加 外国人労働者、運送や鉄道に 4分野、閣議決定」、2024年3月30日、朝日新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英