「私もお世話になったから…」元バックパッカー社長、「地球の歩き方」をV字回復/大切にした「旅人目線」への敬意 ~新井邦弘社長インタビュー後編
新型コロナウイルス禍で消滅の危機に陥った海外旅行ガイドブック『地球の歩き方』を、出版元のダイヤモンド・ビッグ社から受け継いだ学研グループ。人材や制作体制を丸ごと受け入れ、新会社「地球の歩き方」として再出発した。かつてバックパッカーだった新会社の新井邦弘社長が心がけたのは、「地球の歩き方」のスタッフたちが長年大切にしてきた「旅人目線」の編集文化とブランドだった。そして、地球の歩き方の売上げはV字回復を果たした。 【動画】「事業承継はチャンスだ!」専門家に聞く
◆摩擦を生まない学研スタイル
――学研グループが持つ既存の編集事業体に組み込むのではなく、独立事業として再スタートさせるやり方にも驚きました。 新井 たしかに実用書籍部門の一角に、ビッグ社の従業員を引き受けたとしても十分機能したとは思います。 しかし、私の想像ですが、学研グループのスタイルを踏襲したということでしょう。 学研グループは主に教育事業で、数多くの塾のM&Aをしてきました。 全国の塾に、私たちのグループに入っていただく時、いきなりブランド名を学研に切り替えるとか、学研の事業体に吸収するといった形は取りません。 これには明確な理由があります。 私たちがお声がけする塾の多くが、地方のナンバーワンブランドです。 東京の人は知らなくても、例えば熊本では知らない人はいない、といった塾です。 地元では、学研のブランドより元々の看板のほうが強い。 このため、ほぼすべて買収前のブランド名を引き継いできました。 また、経営者層もほぼ100%引き継いできました。間違っても、植民地みたいなことはしません。 『地球の歩き方』でも、同じ考え方だったのだろうと私は思っています。 学研グループとしての知見であり経営判断だと思います
◆もう、下を向かないで行こう
――既存の『地球の歩き方』の体制やルールを変更しなかったのでしょうか。 新井 上場企業グループですので、ガバナンス面での縛りはあります。 たとえば四半期決算だったり、書類手続きだったり、何事でもプライム企業としてのルールに従うことについては必ずやってもらうしかない。 そこは苦労をかけましたが、それ以外は従来通りのやり方を引き継いでいます。 むしろ40年間、海外ガイドブックのトップブランドを作り上げてきた組織に学研が学ばせてもらい、どのようなシナジー(※相乗効果)が生まれるかという期待のほうが上回っていました。 ――株式会社地球の歩き方としてのスタート初日に、どのようなメッセージを社員に伝えたのでしょうか。 新井 まず、私自身が学生時代から『地球の歩き方』にお世話になってきた人間だと伝えました。 そして、もう下を向かないで3年後、5年後に向けて、力を合わせてやっていきましょうと、わりと楽観的に語りかけました。 ――売り上げが9割減となった事業を引き受けることに、不安はなかったのでしょうか。 新井 経営不振と言っても、新型コロナという外部環境の変化だけで起きたことで、ブランドとかコンテンツの価値は、何も毀損されていません。コロナ前の数年は右肩上がりで推移していました。 ですから「外部環境の回復」=「業績の回復」、とシンプルに考えていました。 ただ再びコロナや他の外部要因で、同じ目に遭ってしまったら、経営としてダメだとは思っていて、事業としてのレジリエンス(※弾性)を高めるために、海外ガイドブックの「一本足打法」はやめて、複数の柱を立てることを始めました。