「私もお世話になったから…」元バックパッカー社長、「地球の歩き方」をV字回復/大切にした「旅人目線」への敬意 ~新井邦弘社長インタビュー後編
◆10年後の姿を全員で描く、落下傘社長の手腕
――ご自身が育ててきた人材でもなく、それまで関わりのなかった組織体を、どうコントロールして経営しようと考えていたのでしょうか。 確かに私だけ、落下傘で降りてきたのですから、不安に思う人もいたかもしれません。 そこで私が呼びかけたのは、10年後の姿を34人の社員全員で描くということ。 そこから逆算し、今するべきことを考えようと訴えました。 いわゆるバックキャストという手法ですが、10年後の未来を共有することは、ビッグ社から移ってきてくれた人たちに大きな意味を持つと思っていました。10年後も事業として存続させていきたい。 だからこそみなさんに来てもらった、という学研グループのスタンスを明確に伝えたかったのです。 10年後となれば「本屋さんは少なくなるよね」「だったら電子書籍をどうする」といった、具体的な事業課題も共有できます。スタートして3か月くらいは、10年後を考える機会を頻繁に作りました。 ――スタート直後から「aruco」「旅の図鑑」「国内版」などのシリーズをハイペースで発行し、ヒットを連発。一方で「一本足打法」から脱却すべく食品事業などの展開を進め、業績もV字回復しました。 新井 おかげさまで、当社は9月決算ですが、今期は増収増益の見込みです。 2022年7月には、「地球の歩き方」シリーズ全体でコロナ前の売り上げを回復しました。
◆地球の歩き方には、まだまだ潜在価値がある
――学研スタイルの事業承継のスタイルと、ブランドに敬意を持って移ってきた社員に安心して働ける環境を整えたことの成果ですね。 新井 実は学研のやり方は欧米ではよく見られます。 私は海外戦略を担当していたので、欧米の出版界の動きも見てきましたが、アシェット、ペンギンといった巨大グループの傘下で、数多くの有名ブランドが守られています。 あの有名な出版社もこのグループなのか、と驚くこともよくあります。 ブランドが企業グループ傘下で守られていくのは世界的な潮流であり、日本も今後は同様のスタイルになっていくのかもしれません。 ただ、『地球の歩き方』にはもっと幅広い価値があると私は考えています。 たとえば人を旅に誘ったり、あるいはリアルに集ったり、異業種とのコラボで化学反応を生み出すといった、出版物やメディアの枠を越えた可能性を感じています。 世界でも例のない出版ブランド発の事業展開を目指していきたいと考えています。