統合失調症の〝患者の部屋〟をイベントで再現!無気力、無関心ですさんだ生活を没入体験
統合失調症体験の漫画をモチーフに、患者への理解を深めてもらうというユニークなイベント「完全没入ショールーム 100人に1人が体験する統合失調症の世界!」が2024年10月12日(土)~14日(祝)に東京タワー(東京都港区)で開催中。そのメディア向け内覧会が、会場となる東京タワーにて行われた。 【漫画で読む】統合失調症の患者から、世界はどう見える? このイベントのベースになる、自らの〝統合失調症体験〟を漫画で描いた作家・Himacoさんや、シルバーリボンジャパン代表の関 茂樹氏らが出席し、体験を交えたトークセッションが行われたほか、症状別の「没入体験」ができるブースが公開された。 統合失調症は、約100人に1人の割合で発症するという、決して珍しくない病気。しかし、それに対する誤解や偏見は絶えない。要因の一つに、症状が幅広く個人差もあり、実像が捉えにくいという点があるだろう。 今回のイベントの特徴は、主要となる3つの症状「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」に明確にフォーカスし、それぞれの象徴的な〝患者の部屋〟を視覚的にわかりやすく再現したことだ。 ■陰性症状とは何か? ここではそのうちの一つ、「陰性症状」が顕著な患者のベッドルームを再現した展示を掘り下げてみる。陰性症状とは、主に意欲減退や気分の落ち込み、引きこもりなど全般的に気力が失われる状態を指している。 部屋を見てみると、とにかく汚い。ベッドの上から床まで脱ぎっぱなしの洋服や、読みかけの本、化粧品などあらゆる日用品が散乱している。明らかに「片づけることができなくなった」様子が見て取れる。 このイベントでは、部屋の壁にHimacoさんの実体験漫画が動画にして投影され、患者の生活や心の動きが分かる仕組みだ。「なにもする気がおきず、散らかった部屋で寝てばかりだった」「すべてが億劫でした」と、陰性症状を呈していたころのHimacoさんの映像が流れる。 幻覚や妄想が激しく「全能感」に満ちていた時期が過ぎ、色褪せた現実世界に戻ってきた不安が表現されている。必死にかつての高揚感を得ようとするが、かなわない。「もう一度妄想に手を伸ばそうとしても、そこにはなにもありません」という言葉が印象的だ。 ■気力が振り絞れない、という状態が続く Himacoさんは統合失調症に罹患した体験を自らコミックエッセイ「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる~統合失調症の私から世界はこう見えた~」(KADOKAWA)として出版。当事者ならではの繊細でリアルな描写が反響を呼んだ。 自らの陰性症状時の体験について「妄想が広がらなくなって、鮮やかだった世界が色褪せた感じがしました。仕事に復帰したのですが、以前と違って疲れやすくなり、やる気がおきません。気力が振り絞れない、という状態です。家でも寝てばかりで、朝から動けなかったことも」。ただしHimacoさんの場合は理解ある職場だったので、動けず休みを取らざるを得ないときも快く対応してもらえて、ありがたかったという。 Himacoさんとトークセッションを行った、日本精神神経学会専門医の高野晶寛氏(※高ははしごだか)は「生活をするには〝気力〟が必要なのですが、それが出ない状況です。うまくサポートしないと引きこもりが始まってしまう。患者の方も『大変だ』としっかり声を上げることが大事です」と語った。 ■統合失調症は決して他人事ではない ほかに、「陽性症状エリア」では、幻覚や妄想によって生活に支障が出たリビングを再現。また、「認知機能障害エリア」では、注意力・計画能力・記憶力の低下などによって引き起こされる生活を、ダイニングキッチンをモチーフにして展示する。 「自分も発症するまでは、統合失調症は遠い話だと思っていました。このイベントが、病気を自分事のように感じるきっかけになれば」とHimacoさん。当事者でないとわかりにくい感覚を疑似体験できる貴重な機会だけに、ぜひ足を運んでみよう。 日時:2024年10月12日(土)~10月14日(月・祝)11時~20時※最終日は18時まで 会場:東京タワー フットタウン 1F イベントスペース(東京都 港区 芝公園 4‐2‐8) 主催:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 協力:特定非営利活動法人 シルバーリボンジャパン 入場料:無料 ※統合失調症の症状は人によって異なります。今回紹介した症状や見解は個人の体験を含むもので、すべての人に当てはまるものではありません。似た症状で悩んでいる場合は医師・看護師等の専門家に相談してください。 取材・文=折笠隆