45歳で挑む世界陸上のスタートライン 日本人の概念を覆すきっかけに 末續慎吾 スポーツ一刀両断
交流サイト(SNS)での発信を見て、すでにご存じの方もいるかもしれないが、来年、東京で開催される陸上の世界選手権への出場を本気で目指すことにした。「パリ五輪に出られなかった44歳に、そんな可能性はないだろう」と言う人もいるかもしれないけど、僕は何を言われるかなんて気にしない。 実現のための環境を現在、整えつつある。パリ五輪の時は自分の練習をしながら、依頼された仕事をしながら、支援してくれる企業や人を探していた。しかし、メダルを期待される若手でもない僕は支援を集められなかった。「そういう時代じゃないのか。ビジネスになるか否かで見られているんだろうな」と感じたものだ。ただ、そこで諦めようとは思わなかった。6月に追い風参考ながら10秒66で走り、もっと競技力が上がる感覚があったからだ。 今以上のレベルに踏み込むためには、より時間とお金を競技に投入する必要がある。今季までは講演会や選手指導など収入を得る仕事と、練習時間とのバランスを取っていたが、仕事を絞り、生活を競技に振っていかなければならない。 僕は海の近くに住んでいて、ここは砂浜あり、坂道あり、走る環境は申し分ない。一方で、40代になった現在は技術面よりもフィジカル面が非常に重要になってきている。遠くのトレーナーの元へ行き来し、身体を鍛えることになると、質の高い休息や睡眠を効率よく取るために第2の拠点をトレーナーの近くに確保した方がいい。本気になるほど出費はかさむ。 いろいろ考えた末、先月、SNSで「挑戦」を宣言したところ、少なくない人たちが協力を申し出てくれた。彼らは僕の若い頃の走りに心を躍らせ、その後、自らの事業を成功させ、今度は、助けを必要としている僕を応援してくれる。思いでつながる、ありがたい縁だ。 末續慎吾というアスリートは世界の舞台でメダルを獲得し、日本人は黒人選手に勝てないという〝常識〟を覆してきたわけだけど、あれからだいぶ時間がたってしまった。45歳で世界選手権のスタートラインに立てたとしたらどうだろう。縮こまっている日本人の概念を再びひっくり返すきっかけになるのではないか。未知な領域ゆえに、けがなどのリスクすら予測できない極めて難しい挑戦だ。だからこそ、やる価値がある。(陸上世界選手権200メートル、北京五輪400メートルリレーメダリスト)