福井地裁の「もらい事故」判決が出された背景とは?
先行車2台は対向車をよけた事実
次に、事故の状況についてです。対向車が居眠りでセンターラインをはみ出したという点だけにフォーカスされすぎている感があります。そうだからといって、必ずしも衝突された車両のドライバーに過失が一切ないとは限りません。 そして、今回のケースで、少なくとも裁判所が認定した事実は、本件の事故現場は見通しが良く、かなり前方から既に対向車がはみ出して走行していて、先行車2台はいずれもこれをよけられた一方、衝突されたドライバーは事故直前にわき見運転をした事実があるというものです。 ただ、わき見運転をしていた正確な地点や時間は明らかではないし、脇を見ながら前方を見ることもできるので、結局、どの段階で対向車の動向に気づくことができたかが問題になるとされます。 そして、見通しの良い現場でブラインドになるのは先行車です。 ここで、1台目の先行車とは距離が離れていた(128メートル)ことが認定されているため、問題になるのは2台目の先行車との距離関係です。ただ、裁判所は、2台目の先行車との距離は証拠上明らかではないとしています。 その上で、64メートル以上離れていた可能性もあるとし、「時速50キロの車両の停止距離は約24.48メートルであるところ、仮に、原告F(衝突された直進車の運転者) において、実際よりも早い段階でG車(はみ出してきた対向車)の動向を発見していれば、その時点で急制動の措置を講じてG車と衝突する以前にF車を完全に停車させることにより、少なくとも衝突による衝撃を減じたり、クラクションを鳴らすことにより衝突を回避したりすることができた可能性も否定できないことからすれば、本件事故について、原告Fに前方不注視の過失がなかったということはできない」としています。 確かに、64メートル以上離れていることを前提とすれば、物理的、科学的に考えて、衝突回避の可能性や少なくとも死亡という結果を回避できる可能性は皆無だったとはいえないのかもしれません。その意味では、この判決が、全くの常識外れとまではいえないように思われます。