福井地裁の「もらい事故」判決が出された背景とは?
福井地裁の「もらい事故」判決がネットなどを中心に波紋を広げました。センターラインをはみ出してきた対向車に衝突された事故をめぐる民事訴訟でしたが、衝突された車両に過失はなかったとはいえないとして4000万円もの損害賠償を命じられたことに対して、「納得出来ない」などの声が出ているのです。弁護士の吉成安友氏に、自動車損害賠償保障法(自賠法)の考え方などを踏まえて今回の判決が出された背景や、判決をどう見るかについて、語ってもらいました。
自動車事故の損害を社会的に分担
今回の判決については、裁判所がおかしいのではないかという意見が多く聞かれます。 私も結論的には判決には反対ですが、そうした意見には一部誤解がある場合もあるように思われます。 まず今回、損害賠償請求をしているのは、センターラインをはみ出した対向車のドライバーではなく、対向車の助手席に乗っていて亡くなられた方の遺族です。そして、衝突された車両の所有者(運転していた人が代表を務める会社)が対向車のドライバーとともに責任を負うかが問題になっているのです。 ここで、自動車事故については、自動車損害賠償保障法3条により、自己のために自動車を運行の用に供する者(自動車の所有者など)は、 (1)自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと (2)被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと (3)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと のすべてを証明しないと、責任を免れません。 自動車事故は、被害者に重大な結果をもたらすものなので、車の所有者の方が、運転手に過失がなかったことを証明する責任を負うとされます。そのため、運転手に全く過失がないことを裁判所が確信できる証拠がない場合は 、裁判所は所有者らに責任を認めることになります。 しかも、仮に運転者に過失がなかったとしても、(2)(3)を証明できなければ、責任を免れないとされているわけです。 一方で、自動車の所有者などには保険を強制加入にしており、これは被害者救済を担保するものですが、結局、自動車事故の損害を社会的に分担する仕組みといえます。 このように、自動車事故については、被害者救済が重視され、保険から賠償がされることを前提に、無過失でも責任を負う可能性がある制度になっているのです。