「開発費」は楽しさに比例しない ポルシェ911 ノーブルM12 TVRタスカン 6気筒スポーツ比較(1)
独自設計の4.0L直列6気筒 圧巻の速さ
リーのように、20世紀末にTVRを成長させたのが、ピーター・ウィーラー氏。自身の明瞭な設計理念と技術力が、グレートブリテン島中西部、ブラックプールの工場で作られるクルマへ反映された。 北海油田の事業で財を得たピーターは、1980年代にTVRを買収。市場有数のドラマチックなモデルを提供する、小さなスポーツカー・メーカーへ変貌させることに成功した。 他方、クルマ作りに対する考えはリーと違った。生産を外注することはなく、他社の安定したパワートレインから、独自開発ユニットへのシフトを進めた。2004年に、TVRはロシアの投資家、ニコライ・スモレンスキー氏へ売却されてしまうが。 TVRタスカン Sは、そんな姿勢が体現された代表だろう。1999年にタスカン・スピードシックスの名で発売され、ブラックプールの工場で、ほぼすべての生産工程がまかなわれている。 それ以前のTVRでは、フォードやローバーなどの既存エンジンを積むことが一般的だったが、フロントミドへ収まったのは新開発の4.0L直列6気筒。技術者のアル・メリング氏が設計した、スピードシックス・ユニットだ。 最高出力は、当初355psだったが、2001年に更新されたタスカン Sでは、395psへ上昇。すべてのパワーが、5速MTを介して後輪へ伝達された。 タスカン Sのパワーウエイトレシオは、362ps/t。車重は1090kgと軽く、0-100km/h加速3.9秒、最高速度305km/hという、圧巻の速さを実現している。ただし、ピーターは長距離移動を高速・快適にこなせる、グランドツアラーを意図していた。
ライバルになり得た996世代のポルシェ911
ドラマチックという表現がぴったりのスタイリングを描いたのは、デザイナーのダミアン・マクタガート氏。ノーブルと同じくFRPで構成され、スチール製チューブラーフレーム・シャシーに被されている。 サスペンションは、ダブルウイッシュボーン式。車内空間にはゆとりがあり、荷室容量も大きく、長距離旅行にも問題なく使える。巨大なルーフパネルは取り外し、荷室へ収納することも可能だ。 ミレニアムの時期に、タスカン Sのライバルになり得たのが996世代のポルシェ911。ロータス・エスプリが生産終了を迎え、ライト・スーパーカー級といえるようなクラスでは、選択肢が限られていた。 996型には、1963年の901型以来となる全面的な新設計が施され、1997年のドイツ・フランクフルト・モーターショーで発表。ピンキー・ライ氏が、911らしさを維持しつつ、涙目のスタイリングを担当した。 全長は、先代の993型から185mm伸び、全幅は40mm拡幅。911 カレラ2では車重は50kg軽くなり、ボディ剛性は45%も強化された。 同時に、生産コストの削減と、厳しさを増す排気ガス規制にも対応している。その結果、水平対向エンジンは空冷式から水冷式へ変更。リアにマウントされる、静かでクリーンな3.4Lユニットは、ベーシックな仕様で300psを発揮した。 TVRやノーブルの10倍以上の開発費が投じられつつ、993型由来のフロントサスペンションと、一部のインテリアなどは初代ボクスターと共有。競争力の高い価格に設定され、SUVのカイエンと並んで、ブランドの立て直しへ大きく貢献した。 この続きは、ポルシェ911 ノーブルM12 TVRタスカン 6気筒スポーツ比較(2)にて。
サイモン・ハックナル(執筆) ジョン・ブラッドショー(撮影) 中嶋健治(翻訳)