大詰めを迎えた衆院選で、物価高対策や政治とカネを巡る論戦の一方、この十余年の国政選挙の焦点の一つだった憲法改正の論議が低調だ。 　岸田文雄前政権では衆院憲法審査会の定例日開催が定着し、自民党ペースでの改憲論議が進んだ。 　緊急事態時の国会議員の任期延長を可能とする改憲案の条文化で、公明や日本維新の会などと足並みをそろえている。 　選挙結果によって改憲の動きはどのように進むのか。有権者は、各党の憲法に対する姿勢を改めて確認し、投票の判断材料としてほしい。 　自民党は9条への自衛隊の明記や緊急事態条項を優先課題とする。石破茂首相は戦力不保持などを定めた同条2項削除論者だが、岸田氏が早期改憲を保守層にアピールした「首相在任中の発議」を改めて目標に掲げる。どう整合性を取り、道筋を描くのか、明確に語るべきだ。 　公明党は9条1、2項は堅持し、自衛隊を統治機構の中に位置付けるとする「加憲」の立場だ。 　ただ、与党内でも改憲を巡る温度差は大きい。共同通信による候補者アンケートでは、公明候補の「自衛隊明記に賛成」は13％と、自民の98％に大きく隔たり、「改憲を急ぐ必要がある」も自民の93％に比べて公明は20％にとどまった。 　日本維新の会は自衛隊明記と緊急事態条項を掲げている。 　「論憲」を掲げる立憲民主党は自民案には反対し、首相による衆院解散の制約や臨時国会召集の期限の明記などを先行すべきとする。共産党や社民党は護憲を強調している。 　改憲勢力や論憲、護憲の立場でも論点や議論の進め方の考えは、ばらつきが大きい。 　国の根本といえる憲法を書き改めるとすれば、丁寧な議論と幅広い合意の形成が欠かせない。一部の会派で合意した条文案を性急に国会に提出するような姿勢は国民の支持を得られまい。 　先週末の共同通信第2回トレンド調査では、有権者が投票で重視するテーマ（二つまで）で憲法改正は8番目のわずか4％にとどまり、公示直前からも低下している。 　国会は「1票の格差」の抜本的な是正を放置し、地裁、高裁で違憲判決が相次ぐ同性婚問題にも対処が鈍い。 　法をつくり、そのルールを守る立法府の姿勢が問われている。