ディスクブレーキの「フローティングディスク」ってナニ?
レーシングマシンの性能とルックスを市販車に!
それでは、小~中排気量車や旧車のソリッドディスクやリジットディスクは危険なのか!? ……というと、そんなことはありません。前述したようにフローティングディスクは本格的なロードレースから生まれた技術で、ハイスピードから猛烈なフルブレーキングを繰り返すサーキットでのハードな走りに対応するために登場しました。
なので一般道を法定速度で走る範囲のブレーキングなら、ソリッドディスクやリジットディスクが熱膨張で過剰に反り返るようなことはまず起こりません。 それならなぜ市販ロードスポーツにフローティングディスクを装備するのかと言えば、やはり1980年代の「レーサーレプリカ・ブーム」の影響でしょう。当然ながらバイクのデザインも装備するパーツも、本物のレーサーに近い方が人気が出るからです。 それに当時は、それらの市販スポーツ車がベースのSPレース等も盛んだったので、高性能なフローティングディスクは瞬く間に普及しました。 ちなみに当時のロードレースの頂点であるGP500マシンがフローティングディスクを採用したのが1980年代初頭頃で、国産市販モデルで最初にフローティングディスクを装備したのは、1985年発売のヤマハ「TZR250」だと思われます。
フローティングにも種類アリ
1980年代中盤以降、レーサーレプリカ系に瞬く間に広まったフローティングディスクですが、じつは本物(?)のレーシングマシンと市販バイクでは少々異なります。それはフローティングピン部分の横方向の「可動量」です。
レース用はディスクローターの反り返り分をしっかり吸収するために、指でディスクローターを摘まんで左右に動かすと、カチャカチャと動くのが分かるくらい可動量があります。このタイプを「フルフローティング」と呼び、ハードなブレーキを繰り返しても良好な操作フィーリングを得られますが、可動量が多い分フローティングピンやインナーディスクのピンと接触する部分が摩耗しやすくなります。レーシングマシンなら摩耗したら割り切って交換すれば良いですが、公道用の一般バイクだとそういうワケにいきません。 そこで、公道用のバイクではフローティングピンに波状のウェーブワッシャなどを挟んで可動量を制限した「セミフローティング」となっており、カスタム用のアフターパーツに多いタイプです。サーキットのスポーツ走行などでも熱膨張の反り返りに対して十分効果があるでしょう。 また純正品の中には、見た目はフローティングですがピンをカシメて固定し、ほとんど動かない「フローティングタイプ(フローティング風のリジットディスク)」もあります。とはいえインナーディスクが放熱性の良いアルミ製だったり、アウターディスクと分割した構造のため、ソリッドディスクよりは反り返りにくくなっています。そして何よりレーシングライクなルックスが、大きな魅力と言えるでしょう。
伊藤康司