エヌビディア支援の無名スタートアップ、インド製AIの未来に賭ける
(ブルームバーグ): それは3月の蒸し暑い夜のことだった。インドのムンバイ郊外にあるヨッタ・データ・サービシズというスタートアップのオフィスの裏門で、複数の男性が心配そうに周囲をうかがっていた。午前0時近くになって1台のトラックが停止。予定より10時間遅れで運ばれてきたのは彼らが待ち焦がれていた荷物、エヌビディア製の半導体だった。
エヌビディア製半導体は、世界中でブームを巻き起こしている人工知能(AI)の開発には不可欠だ。オープンAIやグーグルのような米企業がAI用チップに多額の資金を注ぎ込んでいる中、ヨッタはAIの可能性に対してインドで最大の賭けに出ている。
同社の共同創業者であるスニル・グプタ最高経営責任者(CEO)は、インド国内の大手テクノロジー企業やコングロマリットに先んじて動いている。その一因となっているのが、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOとの間で築いた人間関係だ。ヨッタはエヌビディアがカリフォルニア州サンノゼで今週開催する開発者会議でも紹介される予定となっている。
グプタ氏(52)は「私は野心的でハングリーだ。AIの未来に賭けてみたいと思っている」と語った。
ヨッタの戦略は、国内のデータセンターで強力なコンピューティング能力を提供し、インドの企業、スタートアップ、研修者が独自のAIサービスを開発できるようにすることだ。
グプタ氏は、国外のクラウドコンピューティング・サービスはレイテンシー(遅延)の問題があるため自社サービスの方が優位だと考えている。また、世界で最も安価にエヌビディア製AIチップを利用できるようにするとも明言している。
需要がグプタ氏の味方だ。調査会社スフェリカル・インサイト&コンサルティングのリポートによれば、世界のAI市場は2022年の1685億ドル(約251兆3500億円)規模から2032年には2兆ドル超に成長すると見込まれている。
ヨッタがエヌビディアにまず発注したのはAI用GPU(画像処理半導体)「H100」4000基余り。6月までには2万基に達する予定だが、世界的な基準から見るとそこまで大規模ではない。マイクロソフトのような大手は数万基単位で購入しており、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグCEOは年内に35万基の「H100」を配備する計画だとしている。需要が供給を大幅に上回っているため、エヌビディアのフアンCEOは大手企業や各国首脳からも要望がある中、配分を調整しなくてはならない。