「よくわからない解雇理由」で社員を解雇したブラック企業に対して「裁判官が放った第一声」
無駄な抵抗に挑む会社の驚きの強弁
さて次も残業代請求事件だが、上記の例と異なり、思いっきり無駄な抵抗をしてきた事案である。 私が受任通知を会社に送ってタイムカードの提出を求めたところ、素直に出してきた。タイムカードは残業代請求事件においてもっとも固い証拠であると言っても過言ではない。それを元に残業代を計算したところ、あまり大きな額にならなかったので、金額を伝えれば素直に払ってくるだろうと思われた。 が、違った。 「うちの残業は承認制です。承認してないから残業代払いません」 と反論してきた。よくある反論の一つである。承認制を取っていても、タイムカードを見れば残業をしていたことははっきりしており、会社もそれを把握していながら放置していた。さらに、打刻忘れをした際には、手書きで出退勤時刻を記載し、上司がそこにハンコを押していた。これらの事情からすれば、残業を黙認していたことは明らかである。しかし、結局支払いを拒絶されたので、労働審判を申し立てた。 労働審判となると、弁護士をつけるか、つけないなら会社の代表者が自ら来なければならない。それはさすがに不要な手間と金がかかるので、第1回期日前に「やっぱり払います」と言ってくるのではないか、と思っていた。 しかし……弁護士をつけて思いっきり抵抗してきた。そのなかで、驚きの反論があった。 「うちのタイムカードは出退勤時刻を記録するためにあるのではない!」 と言うのである。それ、「弁護士は弁護するために存在するのではない!」と言っているのと同じレベルだと思うのだが。 もちろんそんな反論は受け入れられず、結局こちらの請求額満額に近いかたちで和解が成立した。向こうは弁護士を2人もつけてきたのだが、最初から素直に支払っていれば明らかに安上がりで済んだと思う。多分、相手方の弁護士に払われた費用は、こちらの請求額よりも多い。
裁判官の第一声「何が解雇理由なんですか?」
次は解雇の有効性を争った事案である。依頼人はある日突然、解雇された。解雇理由も不明であった。そこで、会社に解雇理由証明書の発行を要求したところ、極めて抽象的な内容の解雇理由が返ってきた。具体的にどういった行為が解雇理由になったのか、よくわからない内容であった。 どうも本当の解雇理由は、依頼人を快く思わないある社員が「依頼人と上司ができている」というような噂を経営陣に流し、それを真に受けた経営陣が、ろくに事実確認もせず、証拠も無いのに解雇を決断してしまったということのようであった。 もちろんそんな事実は無く、仮にあったとしても、上司との不倫が確実に解雇理由に該当するわけでもない。 会社が態度を変えないので労働審判を申し立てたところ、会社側は、依頼人が上司とトラブルを起こしたこと等を具体的な解雇理由とする答弁書を提出してきた。しかし、それは謝罪をして解決済みのことであり、どう解釈しても解雇理由にはなり得ない。「本当の」解雇理由の方は、何の証拠も無いので主張できなかったようである。 そして迎えた第1回労働審判期日、裁判官の第一声は、 「で? 何が解雇理由なんですか?」 ……静寂に包まれる審判廷。「牛丼を頼んだのに牛肉が入ってないんですけど」的な裁判官のツッコミである。解雇は撤回され、依頼人は無事に職場復帰した。 めでたしめでたし。 結局、会社は無駄な時間と費用を浪費したことになる。素直に解雇を撤回すれば良かったのに……。