「バスが減便・廃止される一番の理由」は運転士不足でも燃料代でもなく…バス事業における<赤字路線>の考え方とは
◆規制緩和後も不採算路線が続けられる理由 なぜそんな一見効率の悪そうなやり方を続けるのか。ひとつは、路線バスという公共交通機関は、広い路線のネットワークがあることで価値が向上するためである。中心街から離れた場所を走る不採算路線であっても、その路線があることによって中心街の黒字路線も乗り継いで利用ができる。 また、バス事業者は不動産事業など関連事業を展開している場合も多い。大手バス会社の会社名自体がその地域で絶大な信頼を持っているのである。そんな中で、不採算路線をすべて廃止、なんてことをすると、「弱者切り捨てだ」と会社のイメージが落ち、結果として関連事業の売上も落ちてしまうかもしれない。それを防ぐための運行の維持という側面もあるだろう。 しかし、現実にはバス事業者が不採算路線の維持をする義務はなく、路線の廃止は事前の届出さえすれば自由に行える。 また、2002年の規制緩和以前から不採算路線の廃止自体は可能であり、規制緩和後に極端に路線の廃止が進んだわけではない。利用の減少と共に数十年かけてじわじわと路線が廃止され続けているのが現状だ。
◆コミュニティバスへの転換 この、廃止される路線と維持される路線の違いは、内部補助を行ってでも維持すべきかどうかの事業者の判断次第だろう。 それでもバスが廃止されると地域の住民への影響が大きいと自治体で判断されれば、地方自治体が主体となって運行されるコミュニティバスに転換される。 例えば、静岡市内のJR東海道線付近を走る、蒲原病院~由比駅を走るバスがある。この区間は従来は富士急静岡バスの運行であったが、同社の撤退により静岡市自主運行バスに移管された。 逆に、静岡県の浜松市と湖西市を走るバスに、馬郡車庫~湖西市役所という区間があった。こちらは従来は遠鉄バスが運行していたが、2021年に利用者減少等の理由により運行が終了してしまった。この区間については、新たにコミュニティバスとして転換されるということもなかった。そのため、湖西市内の区間に関しては従来からコミュニティバスがあったためバスでの移動は可能なものの、浜松市内の区間は完全にバス路線のない空白地帯となってしまった。 ※本稿は、『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(二見書房)の一部を再編集したものです。
綿貫渉
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