「気持ちわかる」ウエストランド井口、「M-1」脱落組に思い馳せる
ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」。11月は「M-1グランプリ2024」準決勝進出者が発表され、受かったコンビ、落ちたコンビに思いを馳せる。井口の言う“究極の客観視”が「アメトーーク!」でも発揮!? そのほかXで話題になった「学祭で手を抜いている芸人」現象の本質や、令和ロマンくるまとマヂカルラブリー・野田クリスタルのコンビが優勝した「THEゴールデンコンビ」、三四郎ANNの武道館ライブなどについても語った。 【写真】学ランコントのかが屋 構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる ※取材は11月25日に実施。 ■ 「M-1」受かった人の話 ──「M-1グランプリ」の準決勝進出者が発表されました。 飯塚 「漫才工房」メンバーからはひつじねいりとママタルトが行ったね。 ──ひつじねいりは準決勝初進出です。 井口 準々決勝終わってから結果が出るまでの間にライブで会ったので、「いくらウケたとしても受かるとは限らないからな!」とは言っておきました。ウケても落ちるのが準々決勝なので。でも、ひつじねいりに対して「おおー!」みたいな気持ちはないですね。 飯塚 実力者だからね。 井口 「初なんだ」くらいの感覚でした。タイタン勢が落ちちゃったっていうほうが印象的です。 ──いつ準決勝に行ってもおかしくなかった? 井口 よく考えたらそんなこともないか。 ──どっちですか? 井口 わかんなくなってきてるんですよね。僕らが最近ライブにあんまり出ていないので、今、誰がどんな感じかわかんなくて。まあひつじねいりも3回戦で落ちている年もあったから、そう考えたらよかったんでしょうけど。 飯塚 前回この連載で「今年の賞レースはハゲの40歳が優勝する説」からトム・ブラウンが優勝するんじゃないかという話になったけど、トム・ブラウンみたいなめちゃくちゃな漫才で優勝して大会をぐちゃぐちゃにしてほしいなっていう気持ちはある(笑)。“賞レースの正解”を狙うような漫才が増える中、そういうの全部破壊してほしい。 井口 初進出が10組で、ほかは経験者なんですね。手堅い感じ。 飯塚 真空ジェシカ、マユリカ、ヤーレンズとかは、今の勢いからしても十分決勝ありそうだよね。 井口 そこに令和ロマンもいるとなったら、決勝は去年とほぼ同じメンバーになる可能性もありますよね。そこに新しいのがどれだけ入ってくるのか。 飯塚 好きなコンビで言うと、例えば炎。「UNDER5 AWARD」にも出ていた大阪のコンビで、一見無駄そうというか、適当そうなふざけた感じも含めて僕はけっこう好きで。楽しみなのはスタミナパン。個人的には「バカだな!」と心から思えるような人が決勝にいてほしい。あと、豆鉄砲は漫才のうまさとほかにはないネタの切り口で、どんどん調子を上げている楽しみなコンビ。最近ワタナベでこういう漫才師はあんまりいなかったから。 井口 確かに久しぶりですね。僕らのときで言えば笑撃戦隊ですけど、解散しちゃったからなあ。 ──今夜も星が綺麗は唯一のユニットです。 井口 三福(エンターテイメント)さんなんて一番ダラダラやってるからみんなで叱りつけてたところだったんですよ。がんばったんですね。ここからは横2組をなぎ倒せば決勝行けますから。 ■ 「M-1」落ちた人の話 井口 めちゃくちゃウケた人でも落ちることがあるから、落ちた人の気持ちを考えちゃいます。それこそ昨日、(東京ホテイソン)たけるとか、(きしたかの)高野とかに会って、「ウケた」とは言っていましたけど。いろいろ思い出しました。「審査員の文句言う時期もあったな」とか(笑)。ともしげさんはやっぱり最近暗いですね。3回戦で落ちちゃったんで。 飯塚 「ジョンソン」ショックもあったから。 井口 暗いなと思って「大丈夫ですよ、今のモグライダーくらいだったらネタにもなるし、いいじゃないですか!」と声をかけたら、「『ジョンソン』も終わってさ」。「M-1」じゃなくてそっちだったんかい!っていう(笑)。でも、気持ちわかるんですよ。落ちてから決勝までってずっと嫌で。「M-1」って常に話題になるし、みんながワーっと盛り上がっているときになんとも言えない気持ちになる。ストレッチーズ、さすらいラビー、キュウ、ネコニスズとか、みんなこっからがキツいと思うけど、そこでどうがんばるかですね。まあただ……いや、これを言うのはなんかなあ……。 ──なんですか? 言ってみてください。 井口 すごく考えたほうがいいですよ、とは言いたいです。「それって意外とダメだよ」ということをしちゃっている人がけっこう多いというか。意外と見落としてる人がいるなって思っちゃいますね。 ──ふむふむ? すみません、もう少し噛み砕いて教えてもらえますか? 井口 めっちゃウケて落ちてるのにはいろんな理由があると思うんですけど、社会のルールとか法律に反していることの話題を出すのは、いくら面白いと思っても排除したほうがいいんじゃないかと思うんですよね。ネタのこと言うのもなんだから、本人には言わなかったんですけど。 飯塚 聞いてくれればアドバイスできるけど、こっちからは言えないからね。みんな、チャンピオンに聞けばいいのに(笑)。 井口 そうなんですよ。僕らのネタなんてめちゃくちゃ言っているようで、実はその線を越えることは言ってない。前もこの連載で言ったように、わりと最初から「オンバト」(NHK)でネタをやっていたので、絶対言っちゃいけないことの線引はかなりしっかり当時からあって。そこがもったいないですよね。そこで落ちちゃう、というか、「そこで落ちたのかな?」となっちゃうのが。 ──アウトかもしれないことは削ぎ落とすべき。 井口 それは絶対そうしないと、後悔が残りますからね。 飯塚 たぶん、話題に出した瞬間にアウトになることはそんなにないけど、話題の過激さでウケを狙おうとしてるんだったらよっぽどウケないとダメなんだと思います。 井口 準決勝に行ったら敗者復活にも出るので、ここが一番厳しい、テレビに出られるかどうかの査定が一番入るところなんでしょうね。「準々決勝とは違うネタをやってくれるだろう」とか「テレビじゃやらないだろう」とは(審査員は)思ってくれないから、この段階からもう絶対テレビでできることをしないと。 ──「準決勝ではネタ変えるつもりです」は通用しないという。 井口 テレビで100%OKじゃないと、受からない気がします。そこをもっとみんな考えないといけないなと思うんですよね。 ■ ワイルドカードからの優勝見てみたい 飯塚 井口くんも経験があると思うけど、ワイルドカードの投票期間が大変。「投票してください」とは言えないけど、上がれるなら上がりたいし、みたいな。微妙な期間。「落ちました! ありがとうございました!」とかも言えないし。 井口 落ちきれない感じですよね。 飯塚 そういう意味でも、なんとなくピリピリしてる。 井口 1つみなさんに言っておきたいのは、ワイルドカード、2年連続くらいで僕らが2位か3位に入ってたっていう。 ──え! そうなんですか? 井口 全然非公式ですけど、当時は1日のデイリーランキングみたいなのがあって、そういうのを考慮した結果、おそらく2位か3位だったんじゃないかっていう。「ウエストランド、実は応援されてたぞ」というのは知っておいてほしいですね。だから、めっちゃウケたけど落ちた人に対してはちゃんと応援してくれるんですよ。決してただの人気投票じゃない。僕はそろそろワイルドカードからの優勝を見てみたい気もします。まだ1回もないので。 飯塚 あと、ワイルドカードの人が勝ち進んだら「審査間違ってたんじゃん」と思う人もきっといると思う。でもめっちゃウケたら通すしかないから。 井口 2回戦の追加合格とかもあるじゃないですか。でも追加になった人って軒並み落ちちゃってて。「間違ってたんじゃん」と言われるのが嫌なのかもしれないけど、恐れないでほしいとは思いますね。 飯塚 審査員にメッセージ? 井口 そうです。「間違ってたんじゃん」って僕は思わないですし。「そういうこともあるか」と思いますけどね。 飯塚 エバースの話なんですけど、ハードルが上がってて大変だなっていう。今年、出られる全部の賞レースの決勝に行っているような気がします。「ツギクル芸人グランプリ」「ABCお笑いグランプリ」「NHK新人お笑い大賞」「ラフターナイト」。 井口 で、NHK獲ったのか。すごいですね、1年で全部根こそぎ決勝行って。 飯塚 今までにないくらい賞レース強者。しかも全部違うネタだから、めちゃくちゃネタ数もあるんだろうね。「M-1決勝候補」と言っている人も多くて、大変な1年を送ってるなと思う。ハードルを下げたい、エバースの(笑)。これを言うことでハードルが上がっちゃってるかもしれないけど、でもそんな心配乗り越えてくるコンビだとも思う。 井口 まあ、みんながんばってほしいですね。9番街レトロとかも応援したくなるフェーズに入ってきましたし。 ──9番街レトロを井口さんが応援? 井口 だってこれでナイチンゲールダンスが決勝とか行ったら、がんばるしかないじゃないですか。最初嫌いだったけどだんだん応援したくなってきた東京ヴェルディみたいな感じにはなってきました(笑)。準決に行った人より落ちた人がここでどうがんばるか、のほうが僕は注目しちゃいますね。 飯塚 ウエストランドも優勝の前の年は準々で落ちてるからね。 井口 あのときは衝撃というか、「去年のファイナリストが準々で落ちるなんて」という感じになっていましたけど、もう今そんなの当たり前になってますよね。3(回戦)とかでも普通に落ちちゃう。準々でやるネタもみんなあったんだろうけど。僕らはあるなしクイズだったから、その年にやらなきゃ絶対ダメだったんですよ。だから3が一番こわかったですね。準々まで行ったら「次からはあれできるからいいや」と思えましたけど。 飯塚 準々だけYouTubeのネタ配信がないから、決勝でやるつもりのネタをできるんだよね。3回戦は動画になっちゃうから、みんな1回ちょっと温存して、それで落ちちゃうこともある。 井口 それが一番地獄なんですよ。あとはもう、オッパショ石なんだったんだよ! 「アメトーークCLUB」で名前出したのに、2でも落ちて3でも落ちて! 落ちすぎだろ!(笑) 布川さんも怒ってましたね。 飯塚 でもケイダッシュもそんなに芸人数いないのに、トム・ブラウンとヤーレンズが残ってて。 井口 ケイダッシュ2組決勝進出もありますからね。タイタン以来の(※)。 ※編集部注:2020年の「M-1」では所属芸人数が決して多くないタイタンからウエストランド、キュウの2組が決勝進出した。 ■ 井口、今年も「R-1」エントリーしてます 井口 準決勝進出者の発表って、いつもは昼の12時くらいに1枚の画像でバン!と出していたじゃないですか。あれがよかったんですけど、今回TVerで夜8時に配信だったからみんなソワソワしながら1日過ごして、で、TVerでコンビ名が読み上げられるのかと思ったら早送りできる番組だった(笑)。早送りできるんかい!っていう。あれでズッコケましたよね。らしくない。「R-1」かと思いましたよ。 飯塚 オマージュ? 井口 「R-1」みたいなことしちゃってるなーと思いました(笑)。昼の12時まで寝といて、誰かからの連絡を待つのが一番いいんですよ。連絡が来るかどうかで通ったかわかるっていう。 ──自分で確認しないんですか? 井口 準決に行ったらさすがに連絡くるじゃないですか。それまで待つんです。だから飯塚さんとかが送ってきてくれるのを見て、結果を把握してました。 飯塚 こっちは当然もう知ってると思って「やったね!」とか送ってたけど(笑)。 井口 それを待ってるんですよ、そうしてくれたほうがうれしいから。ケータイ鳴らなかったら落ちてるってことですからね。 飯塚 「R-1」で言うと、先月井口くんが予言してた「R-1」のエントリーが思いのほか早く締め切られて、ふぢわらさんが本当にエントリーできなかった(笑)。 井口 そうだ、そうだ。けっこうピンネタやってたのに。 飯塚 事務所の人も誰も教えてくれなかったんだよね。 井口 でも、教えてくれないと思います。けっこう気を張ってないと。「M-1」とかは教えてくれるけど、「R-1」って教えてくれないんですよ。 飯塚 結局井口くんはエントリーしたの? 井口 エントリーはしてます。 ──おお! 井口 エントリーだけしてます。でも年内に3回戦までやるんですよ。まさかの。 飯塚 何回戦から出るの? 井口 2からです。去年いろいろやっちゃったから、今年はちゃんとやらなきゃいけない感じになってて。飯塚さんに考えてもらうしかないです。 ■ 「ラフターナイト」で優勝したかが屋はまだ9年目 ──「マイナビ Laughter Night」チャンピオン大会で優勝したかが屋についてお聞きしたいです。 井口 ここで1個タイトル獲れたのはよかったですよね。 飯塚 観に行ったんだけど、けっこう下ネタだったり、「賞レースでそんなネタやんのか!」みたいなカウンターっぽいネタが多かった中で、かが屋がトリで出てきてピシッとコントをやって、ドカンとウケてた感じがめちゃくちゃカッコよかった。コントも見たことない形だったし、かが屋はずっと新しいことをしていると思う。けっこうみんなかが屋のことを知っちゃってるから、特別に思われにくい気がする。東京03が「東京03」というジャンルを確立させたみたいに、かが屋は「かが屋」というジャンルをやってる。 井口 親子のネタですか? 学ランの息子とお母さんの。 飯塚 本人が、ボケかどうかわからないけど、コントのために学ランを買って、もったいないから今年の賞レース全部学ランのコントで出たって言ってて。お母さんと息子みたいな設定がめちゃくちゃいっぱいあるらしい。 ──「NHK新人お笑い大賞」も学ランのコントでしたね。反抗期が終わった息子とお母さんという設定で。 井口 あ、僕が見たのもそのネタです。それでさすらいラビーに「お前らはフェイク野郎だ」って言ったんですよ(笑)。何がいいかはさて置き、質が違うなと思って。 ──かが屋が10年以下の賞レースに出ていることに対して「まだ出られるんだ?」と言う人もいて、つまり長く活躍されているイメージを持たれているということですよね。第7世代ブームや加賀さんの休養なども挟んで、まだ10年以下。 井口 まあ、僕らも4年目とかで「笑っていいとも!」出てますからね。「UNDER5」に出てたら優勝してますよ。 飯塚 当時からあればね。 井口 僕らのときはなかったんでね? だから僕からしたらみんな、のろまではありますよ。 ──「THE MANZAI」認定漫才師にも芸歴5年以内で2回選ばれていますもんね。 ■ 「ゴールデンコンビ」は民放5局ぶっ通し特番で ──「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」はご覧になりましたか? 飯塚 最初は(TBSの)「ドリームマッチ」っぽい感じなのかなと勝手に思っていたんだけど、お題がその場で発表される即興ネタという形だから、出演者たちの珍しい姿を見られた気がしました。最初のほうはショートコントで、「その発想さすがだな」というのが見られるんだけど、進んでいくにつれ、本当のムチャぶりとかがあってかなり土臭くやっている時間もあって。くるま氏のああいう汗かいている姿とか、(チョコレートプラネット)長田さんや(シソンヌ)じろうさんというネタ強者が困りながらもなんとか乗り越えようとしている姿とか、そういう面白さもありました。でも、やっぱりホリケンさんと(ニューヨーク)屋敷さんのコンビの存在感がすごかった。「ホリケンさんってすげえな」っていうのを全編通して思いました。どんなお題が来ても速いし、発想もぶっとんでる。屋敷さんを選んだのもさすがだなと。ホリケンさんのむちゃくちゃなボケに、屋敷さんが「何やってんですか!」とかじゃなくて、「今日俺死ぬぞ!」みたいな、全部を俯瞰で見たツッコミをしているのがよかった。ただ、一番思ったのは、これテレビで観たかったなと。 ──地上波で。 飯塚 セットや広告にお金がかかっているのはもちろんあるけど、このメンバーを集めること自体は地上波テレビでもできると思うんですよ。配信だと観るタイミングがバラけてしまうので。 井口 その瞬間の面白さを共有できないですよね。ネタバレ気にして、いつ感想を言っていいのかもよくわかんないし。 飯塚 何時から放送スタートして、みんなでその時間に観て、SNSで実況したりして、そういう盛り上がりの中で特に観たかった番組なのかなと個人的には思いました。通常、裏番組があると出られなかったりするけど、もう民放全部ぶっ通しにして1つの番組を放送すればいいんじゃないかと。テレビがネット配信に押されてるとか言われてる中、裏番組で争ったりしているの、意味ないと思うんですよね。「ゴールデンコンビ」みたいな巨大番組を日テレ、TBS、テレ朝、テレ東、フジ全部でやって、どのチャンネルからでも観られる、みたいなことをやってほしい。 ──それいいですね! どうやったらできるんですか? 本気出せば? 飯塚 本気出せばできるんじゃないですか?(笑) そしたら制作費も5倍使えますし。テレビでみんなで観るコンテンツにしたほうが面白いだろうなと思いました。 井口 「M-1」はまさにそうだと思いますけど、同じ時間を共有することで盛り上がる番組ってありますもんね。僕らが「ドキュメンタル」で負けたことってもう言っていいのかな? 飯塚 地上波なら放送直後からネタバレ気にせず感想言えるもんね。 井口 結局言ってないですからね。「ドキュメンタル」の結果。今、一か八か言ってみましたけど(笑)。 飯塚 盛り上がりがバラけるのはちょっともったいないよね。まあでも「ゴールデンコンビ」の話は年末のライブで野田さんに聞きましょう。 ■ 「これぞ井口」の強み 飯塚 「アメトーーク!」(テレビ朝日)の「アメトーーク!にハマってない芸人」で、井口くんがハマってる側で出てた。 ──しかも次の週の「ひとり暮らし長~い芸人」にも連続で出演していて、本当にハマっている感じがありました。 井口 ハマってる側の一番若手で出させてもらって、ありがたかったです。けっこういろんな人に「面白かった」って言われました。 飯塚 その中で、ここ井口だな!と思った瞬間があって。ダイノジ大谷さんの話になったときに、よしもとの人たちは大谷さんをイジるの好きだからわーっと盛り上がっていたけど、井口くんがお客さんの反応を察知して、大谷さんのことを知っているか聞いたら案の定あんまり知らなかった。よしもとの内輪でワイワイやっている中だとそこに気づかないんだよね。それが井口くんの言う“究極の客観視”というか、そこで一歩引いて「お客さんは知ってるのか?」と考えられるのが井口くんの強さだと思った。それに気づける人って意外といないから。 井口 そうですね。あとよしもとが嫌いっていうアンテナもあるので、「今これよしもとのノリじゃないか!?」というのは常に気づくんですよ。それに収録上、もっと大谷さんの話が長かったので、さすがにもういいよっていう感じにはなってました(笑)。バイク(川崎バイク)さんも独特の雰囲気で面白かったですね。あんな人いないというか。みんなああいう気持ちを抱えてるけど、それをあんなふうに言う人いないので。 飯塚 井口くん、毎週「ロンハー」か「アメトーーク」かどっちかには絶対出てるね。 井口 昨日も「ロンハー」の収録で4週分撮ったんですけど、ずっと野田さんも一緒でした。「さんまのお笑い向上委員会」も野田さんと一緒だし、意外とずっと一緒に出てます。 ■ 学祭で手を抜いている芸人 飯塚 「学祭で手を抜いてる芸人」みたいな話題がXで盛り上がっていていたけど、今ってネットミームになるのがとにかく速い。「僕たちはがんばってます」とか「この人たちは手抜いてる」とか、そういうポストばっかり拡散されて、エバースが「NHK新人お笑い大賞」で優勝した、みたいな本当のニュース以上に注目されるのが最近の特徴だなと思って。「ABCお笑いグランプリ」の金魚番長の“ワンピース歌舞伎”もそうだけど、めっちゃネタをがんばって優勝したことと同じくらい、もしくはそれ以上にそういうことのほうが話題になる。 井口 ただ、僕らも学祭に行かせてもらっていますけど、けっこうファミリーで来ている人が多いんですよ。そういう人たちはネットで話題になってることも別に知らないから、舞台でそれをイジることって誰のための何をやってるんだ?ということになってくる。でも、来ていた一部の人がそれをSNSに載せて、また話題になって。何が目的か見失ってるというか。 ──目の前のお客さんよりSNSで話題になることを見据えたボケ、みたいな。 井口 究極、そういうことになってきますよね。いびつな世界になってます。会場に来ているごく一部のお笑い好きな人が発信することで、お笑いファンの中ではそれが事実になっちゃうので。 飯塚 変な話、その場にいるお客さんより、“手を抜いてるボケ”をあとでSNSにアップすることのほうが大事になりかねない。 井口 いよいよ誰のための何かもわかんないですよ。まあ単純に、証拠がないことはなんとでも言えるから(「手を抜いていた」とか軽々しくSNSに投稿するのは)やめろよ、とは思いますけどね(笑)。 飯塚 でもこういう話題、一昨年くらいにもあったよね? 井口 ああー、なんかありましたね。だから、定期的に出てくるんでしょうね。 飯塚 言いたいんだろうね。「あの人手を抜いてた」とか。 井口 昔は口々に言ってたのが、SNSに載せてバズっちゃうから。 ■ 三四郎、いつもの“ノリ”を武道館で 飯塚 「三四郎のオールナイトニッポン」10周年記念イベントがあったけど、武道館を埋めるってすごいよね。とんねるずのあとに三四郎っていうのも。 ※編集部注:11月8日、9日に日本武道館で「とんねるず THE LIVE」が開催された。 井口 あんまり粒立てられてないですけど、「オールナイトニッポン」を10年やるってすごいですよ。ナイナイさんオードリーさんが長いから麻痺しがちですけど。 ──2部から1部に昇格してまた2部で、という変遷を経ての10年です。 井口 帰る場所がある心強さはありますよね。「この人たちは応援してくれてる」っていう。その結果、武道館。なかなかたどり着けるところじゃないですから。 飯塚 本人たちも言ってたけど、内容も武道館でやることじゃないようなことをしていて。なかやまきんに君を呼んで、「イスにおかけください」と言って座らないとか、「武道館でやることか!」ということも含めて面白いのが三四郎のラジオの“ノリ”。それを延々とやっているのをみんなで観るのがいいんだろうね。今年2月にあった「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」は、プロレス練習したり、DJの練習したり、漫才もやるからネタ作ったり、1年かけて準備して、けっこうちゃんとショーとして見せたイベントだと思うけど、三四郎はその逆。なんにも決めてないように見えるというか、ふらっと来て、いつものメンバーでわちゃわちゃやって、それが面白くなる。それも1つの形なんだなと思った。Xで感想を見ていたら「オードリーのライブは感動したけど、三四郎のライブは感動しない。それがいい」みたいなものがあって(笑)。そういう良さなんだろうね。 ──井口さんの“帰る場所”ってあるんですか? 井口 ないっすよ。でも(配信ラジオの)「ぶちラジ」を今みたいに配信が流行る前からずっとやっていて、普段のライブは人気なくて出待ちもいなかったけど、自分でライブをやったら常に150人は埋まったんですよ。そういう点では、みんなやっておけばよかったのになーとは思います。誰よりも先に配信をやり始めていたので、そこが僕らは特殊だったと思いますね。何もないときに150人確実に来てくれるっていうのは本当に助かるので。K-PROライブで僕より人気の奴がライブ打っても、150人集まらないですよ。普通のトーク、ラジオの強みですよね。人間性でお客さんが来てくれるっていうのは。 ──「ぶちラジ」で武道館目指したいですか? 井口 来年デカいところでやろうとしてるんですけど、会場がなかなか取れなくて、平日にやるしかないから今ピンチです。落ちるんですよ、(会場側の)審査に。どこかはまだ言えないですけど、このままだと平日に2000人集めないといけないので、ピンチです(笑)。 ■ みなみかわ独自の単独ライブ 井口 みなみかわさんの単独ライブはどうでした? この間みなみかわさんに会って、飯塚さんと飲んだ(※)っていう話をしてたので。 ※編集部注:飯塚は昨年からみなみかわの単独ライブの構成を担当。みなみかわの妻がDMで飯塚に依頼した。 飯塚 去年初めて関わらせてもらって、今年が2回目。実は前回の単独ライブから1年半空いているんだけど、1年半おきでやっても“毎年やってる”感じになるんじゃないかっていう作戦らしい(笑)。 井口 ズレたら2年空いたみたいな感じになるときあるでしょ、たぶん!(笑) でも意外にみなみかわさん、単独を定期的にやっていこうという感覚があるのがすごい。賞レースで結果残して、とかではない出方で登場して、今これだけテレビで活躍していたら、普通もう単独なんてやらないじゃないですか。ネタやってないとダメなんだっていう感覚がちゃんとあるのはさすがだなと思いますね。 飯塚 「やってないとナメられる」っていう不安があるんだろうね。 井口 別にネタ番組も出るわけじゃないから、ネタいらないじゃないですか。僕らはネタ番組あるから作らなきゃいけないなと思うけど。それなのにやるっていうのがすごいなと思いますね。 飯塚 去年も今年も、最後に30分くらいの長尺漫談をやっていて、去年は怪しい投資に手を出した実体験を語ったんだけど、今年は自分の出生のルーツみたいなことをお父さんと一緒に確認しに行くルポ漫談。その旅の話をみなみかわさん流の語り口で話すのが面白くて。今年はスーパー・ササダンゴ・マシンさんも裏方として加わって、「パワポ漫談」みたいな新しい形になっていて、そういうネタをしている人っていないから、独自でいいなと思った。 飯塚 「ゴッドタン」(テレビ東京)の「みなみかわの相談相手オーディション」にも出てたね。 井口 しょっちゅうです会ってます。明日もか、っていうレベルで。 飯塚 井口くん、みなみかわさん、野田さんって全部やってるよね。 ■ 飯塚のライブ「つぶぞろい」2年ぶり開催 井口 ラブレターズと2組で「あちこちオードリー」(テレビ東京)の収録に行ってきました。 飯塚 あ、そうだ。今度また「つぶぞろい」(※)開催します。 井口 やるんですか? 飯塚 え、知らないの?(笑) 井口 (スケジュールを確認して)あ、本当だ。書いてある。 ※編集部注:「つぶぞろい」は飯塚が2011年から自主開催していたライブ。三四郎、ジグザグジギー、浜口浜村、ぽ~くちょっぷ、ウエストランド、ラブレターズ、マヂカルラブリー、脳みそ夫、R藤本らがブレイク前に出演していた“伝説の地下ライブ”。2022年、ウエストランドの「M-1」優勝を機に10年ぶりに常連メンバーが再集結した。 飯塚 今回はラブレターズ、ウエストランド、三四郎、マヂラブ2人ともと、ジグザグジギーもちゃんと出られる。脳さんとルシファーさんとぽ~くちょっぷも。 井口 ラブレターズと2組で「あちこちオードリー」出たときも思いましたけど、みんな一緒にやっていた人たちが、まあ辞めていった人もいますけど、今こうして出てると思うとうれしいというか。いいですよね。 飯塚 誰かが優勝したら開催されるから。 井口 続けていくためには優勝し続けていくしかないですね。次はルシファーさんに「R-1」優勝してもらいましょう。 ■ あっちでもこっちでも意見を言う番組 飯塚 そういえば「永野&くるまのひっかかりニーチェ」(テレビ朝日)に井口くんがゲストで出て。 井口 なんか、出ていいんだっけ?みたいになりました。「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)もあるし、「これに出てこっちの告知してもいいんだっけな?」とか、よくわかんなくなっちゃってます。 ──私見を述べる番組が多いから。 井口 そうそう。一方、永野さんと(「耳の穴~」に出ている)久保田さんは「やすとものいたって真剣です」(ABC)で若手の相談を受けて意見を言うみたいな企画に出ていて。そのへんの人たちが順繰り順繰り出てしゃべっていて、ぐちゃぐちゃになってきてる気がします。みんな自分に自信がないから、そういう意見を持っている人に先導してほしいっていうが需要があるんでしょうね。あとは、金がかからないのか(笑)。 飯塚 前も言ったけど、知らない演者の凝った企画って見てもらえない。「見取り図じゃん」(テレビ朝日)も、「大きい声では言えないけど…小さい声なら言える会」がめちゃくちゃ再生されるらしくて。 井口 20分、30分だったらそのくらいのほうがいいのかもしれませんね。ネットニュースにもなりやすいし、記事を読んでから観る人もいるだろうし。 飯塚 ラランド・サーヤさんとくるま氏の「みんなテレビ」(テレビ朝日)は、VTRをがんばって作ってるので、そっちもぜひ見て欲しい。ネットニュースになるようなことは何も起きてないけど。 井口 小声のやつで僕が言った、「男なのに運動部じゃなかった奴、信用できなくないですか?」の場面が切り取られて何回かXで上がって、そのたびに「こいつはひどい」みたいになってるけど、写真だけ見てないで、観ろよ! 番組を! 観てみろ、けっこうお前らが思ってる通りのこと言ってるから!(笑) ■ 「M-1」には夢がある ──年末開催の「ライブ!!今月のお笑い」でやりたいことはありますか? 飯塚 野田さんが井口くんのことをどう思ってるのか、ちゃんと聞いてみたいっていうのはあります。 井口 意外と褒めてくれるのって野田さんしかいないので。褒められたいです。 飯塚 あと、野田さんがどういう思いで仕事してるのかとかは気になる。 ──野田さんを質問攻めにしますか。 飯塚 確認ですね。「野田さんに確認してみよう!」。野田さんってお笑い界全体のことをすごく考えてる気がするんです。「R-1」や「THE W」の審査員を引き受けているのは誰かがやらなきゃいけないとか、後輩のためにとか、そういうふうに考えて動いてるんだろうなと思って。なかなかそういう動きをしている人っていないから。 井口 そうですね。「知るか」って思っちゃいますもん。 飯塚 この前も、後輩を心配して野田さんがごはんに連れていったって聞いた。 ──え! 意外です。 井口 いや、僕だってストレッチーズとかとメシ行ってますから! その後輩が言うか言わないかだけで。 飯塚 ストレッチーズが言わないだけ(笑)。 井口 それくらいみんなやってるんですよ! 「裏で優しい」とか一番どうでもいいんだから。誰でもできるから、「裏で優しい」なんか。どうせ高野で感動してるんだろ、お前ら! 芸人魂で勝手に感動して(※)。「裏で優しい」はもういいよ。芸人に悪い奴なんかいないからな! いい奴の中でやってるから! お前らだろ、悪いのは。人の悪口とかばっかり言ってきやがって。どうしようもない。 ※編集部注:「水曜日のダウンタウン」(TBS)の「決まり衣装芸人、M-1予選前日のロケで衣装が汚れるくだりが発生したらさすがに躊躇しちゃう説」できしたかの高野がボケのために衣装のスーツを破壊、それに感動している視聴者のことを言っていると思われる。 飯塚 話は戻るけど、「M-1」の公式本でもマヂラブと対談していたね。 井口 そうだ。それで「M-1」のポスターも撮ったんですけど、僕が村上さんの肩に手を置いているんですよ。そのせいで「全組一斉に集まったのか!?」という期待を抱かせてるっていう。この2組だけ一緒に撮っているだけですからね。 飯塚 例年だったら前年チャンピオンがポスターにデカく起用されるけど、令和ロマンが今年も出場しているからああいうふうになったんだろうね。 井口 だから、僕ら史上初の2年連続ポスターに出てるんですよ。 飯塚 いろんな人が言ってたけど、全員揃っているのがすごいよね。 井口 解散してないし、みんなギリギリ踏みとどまってますから。いろんな時期を経て、集まれた。 飯塚 チャンピオンがみんな無事。それは夢あるよね。 ■ プロフィール □ 井口浩之(イグチヒロユキ) 1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)は毎週火曜26:34~。タイタン所属。 □ 飯塚大悟(イイヅカダイゴ) 1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」「クレイジージャーニー」(TBS)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。