【パキスタン代表監督奮闘記】野球に会議室は貸せない!?会議は青空の下で
今月16日から台湾で、アジア最高峰の野球大会「アジア選手権」が開催される。出場国のひとつ、パキスタンの代表監督を、日本人の色川冬馬さん(25)が務めている。現在パキスタンで強化合宿中の色川監督に、大会に向けた現地の状況や思いを寄稿してもらった。
イラン代表監督からパキスタン代表監督に
私は常にドキドキ・ワクワクする挑戦を求めている。それが大好きな野球を通しての挑戦であれば、より最高だ。私にとって、パキスタン代表監督という旅は、そんな新たな挑戦の始まりの一つだった。 パキスタン代表との出会いは、今年の2月。イラン代表監督として挑んだ西アジア選手権だった。彼らを初めて見た時から、ボールへの執着心、捕球からのスピード、そして何よりもアグレッシブな動きにワクワクしてしまっていた。結局、大会はパキスタンが優勝、そして私が率いたイランが2位という結果。その後、パキスタン野球連盟会長から「私達の次なる目標は中国。今の私たちに必要なのは、お前のコーチングだ」との誘いの言葉に心を打たれ、パキスタン代表選手の野球に取り組む姿勢に可能性を感じ、代表監督へ就任することになった。 彼らの凄さは、速い球を投げる、速く走る、そして遠くに飛ばすという、どんなに優れた指導者でも与えることの出来ない能力を持ち合わせている事である。私の仕事は、その能力がコンシスタントに発揮できるメンタリティと技術習得へ導くことである。そう理解しているつもりでも、私がいつも苦しむのは自分自身の「固定観念」。言語、文化、宗教が違うからこそ、お互いを尊重し合える環境を、積極的なコミュニケーションの上で整えていこうと、考えていた。
野球の扱いのひどさに屈辱
そして8月、アジア最高峰の大会「アジア選手権」に向けた代表合宿に合流した。しかしながら、パキスタンに来てからの生活は、大好きな野球とともに生きてきた私にとって、屈辱的な日々だった。野球の認知度が低いが故、パキスタン国内での野球の扱いはひどかった。ミーティングをしたくても、スポーツ協会管轄のミーティングルームが空いていようとも、野球代表には貸してもらえない。結局、私はしびれを切らし、予定より6日遅れで、外にホワイトボードを持ち出しミーティングを行った。この国には、球場もなければ選ぶほどの野球道具もない。それだけでなく、食事が時間通りに来なかったり、予期せぬ水まきが急に始まったりと、マネジメント(野球以外)の部分でも、野球をする環境にたどり着くのが大変なのである。それでも、目標を成し遂げたい彼らの想いとアイディアが逆境を打ち破っていく。改めて、日々教えているようで学んでいる事を実感している。