「良い手術を受けるために患者さんがすべきこと」と「日本の医療制度の問題点」/渡邊剛(ニューハート・ワタナベ国際病院総長)
かつて「お医者さまは神様です」「医者の言うこと正しい、だから絶対に聞かなければいけない」と思われていた時代がありました。でも、いまはそうではありません。自分のカラダのことは自分で考えることが求められます。治療法も、手術を受ける医者も選ぶのは患者さん自身なのです。 【写真】執刀する渡邊剛医師
「医者に遠慮する必要はまったくない」と心臓外科医の渡邊剛氏は話す。医療は患者さんのためにあるのだから、と。そして話は「日本の医療制度の問題点」にも及ぶ─。(『増加する心臓病─。知っておきたい病院選びのポイント』から続く) ■■医者に対して遠慮する必要はない ──先生は、15年ほど前から「メール外来」を行われていますね。 「はい。金沢大学にいた2005年から患者さんが私に直接相談をできるようにするため、心臓手術に関する相談フォームをホームページに設けました。 いただいたメールにはすべて目を通し、よほどの事情がない限りはすぐに返信するようにしています。時に深刻な場合は相談相手から検査結果や経過を聞き、私の病院(ニューハート・ワタナベ国際病院)で手術を行ったことが幾度もありました。 メールのやり取りをして思うのは、相談される方の多くが、自分の病状や治療法をよく調べている、ということです。 それは決して悪いことではなく、むしろ非常にプラスです」 ──自分のカラダの状態は、お医者さん任せではなく自ら知る必要がありますよね。 「そうなんです。なのに、こんな心配をされる患者さんもいらっしゃると聞きます。 『先生にあれこれ聞き過ぎると嫌な顔をされないだろうか』 『医者でもない自分が、治療法について疑問を投げかけるのはおこがましいのではないか』 そんなふうに気にする必要はまったくありません。 私のもとに相談に来られる方の中には、論文まで読み込んで、『だから先生の手術を受けたい』と言って来られる方もいます。 診察を受けた医者から言われた治療法だけがすべてではありません。 インターネットの検索画面にキーワードを打ち込めば、関連する項目が無数に出てくる時代です。ひとりの医者の言葉を妄信することなく、自ら治療法の選択肢を広げていくことも大切でしょう。その際に情報の波に飲み込まれそうになったら、心臓に関しては私にメール相談をしてもらえればいいかと思います」 ──治療法だけでなく「手術後に関しても調べておくとよい」と先生は言われますね。 「どんな手術を受けたかによって、回復や退院するまでの日数は大きく変わります。たとえば心臓手術の場合、旧式のカラダを切り開いて行う手術と『ロボット手術』と呼ばれる内視鏡を用いての手術では術後の回復具合も大きく違ってきます。 早く復帰しなければいけない状況にある方にとって、どれくらいの期間で歩けるようになり退院できるのかは、これまでの生活を維持していくうえでも大切なことでしょう」 ──そうですね。 「私の友人で肺がんの手術を行っている外科医がいます。彼の手術を受けた患者さんは、手術終了1時間半後には歩けて、水を飲んで吐き戻しがなければ食事もできます。それは80歳の高齢者であろうと可能で、さらに翌日には退院できるそうです。 このような術後にまで気を配った手術ができる医者に出会えた方がいいですよね。『目の前にいるお医者さんにすべて任せましょう』という考えは、もう古い。誰に自分の命を託すかは、患者さん自身が知識も得て決めるべきです」