ある一杯との出会いがこの世界に…「未だに満足することはない」生涯現役 81歳のミスターバーテンダーは語る
佐藤さんは未だに疑問を持ちながらカウンターにたちますが、 道を究めようとする姿勢は高い精神性を感じさせます。 ■師匠に通じた「必死の姿勢」 (佐藤昭次郎さん)「東京でバーテンダーになりたての頃、師匠がカウンターの中で両サイドに我々数人がいる中で、実際にカクテルを作るんですが、口頭でいろいろ教えてくれるわけではありません。料理人の世界と同じで、見て技術を盗めというわけです。ある日、師匠が一杯のカクテルを完成させようとしているときに、私は必死でレシピを覚えようとしていました。ある日、師匠が右側にいた私に見えやすいように体をひらいて作ってくれたんです。その時はすごくうれしくて、修業に身が入ったのは覚えています。バーテンダーになりたくて大分から上京して必死になっている姿勢がきっと伝わったのかと思います」 佐藤さんは微笑みを絶やさず、当時の思い出をなぞるようにグラスを優しく磨きあげながら淡々と話してくれました。そして大切に守っていることを語ってくれました。 ■大切に守っているものは「人の信頼を裏切らない」 (佐藤昭次郎さん)「人間関係は信頼で成り立っていると思います。一杯のカクテルをお出しするときも真心を込めてシェーカーをふることを心がけるとその心や気持ちはきっと届くと思います」 佐藤さんは2018年、それまでの功績が称えられ、誰もが憧れる日本バーテンダー協会最高賞の「ミスターバーテンダー」を受賞しました。今も日本バーテンダー協会の特別運営顧問を務めています。 佐藤さんの存在は全国の多くのバーテンダーのあこがれです。今も佐藤さんの元にはカクテルに向き合う姿勢や、レシピを学ぶため全国から訪れます。佐藤さんのもとで修業した若手はいろんな手ほどきを学び、「信頼」の重さを受け継ぎながら、再び全国に散っていきます。 ところで、佐藤さんは35歳の時にボーイスカウトの指導者になりました。ボースカウトのモットーは「人格・技能・健康・奉仕」で、その精神がバーテンダーの世界に間違いなく生かされているとしみじみ語ります。また、座右の銘は「宝積」です。人を守って己を守らず、人に尽くして見返りを求めないという意味です。お話をうかがっていても、間をおきながら静かに語る口調は謙虚さがにじみ出ています。