AWSが生成AIに関する最新施策を説明、企業の開発や利活用を支援する取り組みをアピール
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は10月31日、最新の生成AIへの取り組みを紹介する記者発表会を開催。Amazonがこれまで取り組んできたAI活用を紹介し、AWSで提供するサービスを紹介するとともに、最新事例を紹介した。 【画像】Amazon.comでの生成AI活用例 事例を紹介した狙いを、AWS サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人氏は、「社内に課題を抱え、生成AIを使って解決したいと考えているものの、具体的にどうすればいいのかわからないという企業は多い。積極的に事例を紹介することで、自分たちもこんなやり方ができるのでは?と考えてもらうきっかけになれば」と説明。AWSを活用した生成AIソリューションをさらに拡大することに取り組んでいく。 なお、7月22日に発表した「AWSジャパン 生成AI実用化推進プログラム」は発表時の目標としていた50社を超え、現時点で60社が応募しているという。要望が多いことから、当初10月末としていた参加者募集締め切りを11月22日まで延長することを決定した。 ■ AWSにおけるAI活用の取り組み AWSでは生成AI登場前からAI活用に取り組み、「25年以上にわたりAIへの投資を行い、例えばAmazonの配送工場で製品ピックアップに利用しているロボットなどで、AI技術を利用している。生成AIについても、ユーザーレビューの内容を要約できるボタンを設置するサービスや、Amazon出店者に対し商品がより良く見える背景をワンクリックで生成するサービスなどを提供している」(小林技術本部長)などの実績を持っている。 さらにAWSとしても、生成AIスタックとして、インフラストラクチャ、アプリケーション開発、アプリケーション利用という3層を提供する。 インフラストラクチャでは、「モデルの学習と推論のためのインフラストラクチャ」としてエヌビディアと戦略的なパートナーシップ拡張を発表。最新GPUによるインスタンスを順次提供し、基盤レベルの技術連携で2万個のGPUによるクラスタ提供が可能となっている。 「トレーニングと推論のためのアクセラレータ」として、カスタムシリコンによって推論に必要なコストを最大40%削減。推論時のエネルギー効率が最大50%向上した。トレーニングにおいてもモデルの学習に必要なコストを最大50%削減。学習時のエネルギー効率が最大25%向上している。 モデルを活用し、アプリケーションを開発するためのツールとして提供している「Amazon Bedrock」だが、ユーザーの要望や用途に応じて選択できる幅広いモデルが用意されている。 「生成AIが流行り始めてから、毎月のようにさまざまなベンダーが新しいモデルを出し、できることが拡大したことがニュースになっている。同時に、いろいろなモデルの比較が行われている。正直なところ、モデルの能力は日進月歩というのが実情。そこでAmazon Bedrockは、最適なモデルを選び、最適なものを使っていただくことができるような“からくり”になっている。また、Amazon Bedrockには、自社データを活用し、そのモデルの挙動をカスタマイズする仕組みがある。汎用的なものではなく、お客さま自身の企業情、お客さまのさらに先にいるお客さまなどの情報を使いながら、用途に合った応答が得られるようにカスタマイズしていくことを、安全に行えるようになっている」と、その特徴を説明した。 アプリケーション利用である「モデルを活用するアプリケーション」では、Amazon Qを使って日常業務、開発、データ統合、コンタクトセンターソリューションなどで利用するアプリケーションが提供されている。 ■ AWSでの生成AI活用事例 さらに、ユーザー自身が実務における課題解決のために、AWSで生成AIの本番利用をスタート。そのひとつが株式会社レアジョブテクノロジーズが導入した、オンライン英会話のレッスンレポート作成を生成AIによる自動化サービスだ。 「英会話レッスンでは、受講者が講師と英語でしゃべり、さまざまなフィードバックをもらうことで、学習し、英語が身についていく。オンライン英会話レッスン実施後、講師の方が次回のための改善点とすべきポイントや、もっと伝わりやすくなる点を指摘するといったことをまとめたレポートを発行している。実はこのレポート作成が講師にとって大きな負担になっていた。レッスンが1日1回ではなく、複数回あり、時間がたってからレポート内容を思い出すことが難しいなどが課題だったという。そこで生成AIを活用し、レッスンの様子を解析し、レポートの基となるまとめを講師に渡すように仕組みを変更した。講師はそれを見て、必要に応じた手直しを行い、受講生に届けることができるようになったことで、大幅に負担削減につながった」とした。 社会課題解決のために生成AIを活用した事例が、株式会社Pleapが導入した、医師と患者の会話からカルテ入力をサポートするための生成AI活用だ。カルテ作成が医師の業務の負担となっていたことから、診療時の音声を、言語モデルを使って文字化。診療内容をリアルタイムでカルテにすることで業務効率が上がるとともに、従来はカルテになっていなかった会話部分までカルテに残すことが可能となった。 専門家の業務を生成AIによって支援した事例が、株式会社パテント・リザルトが導入した、特許の解説をするための要約、図表を生成AIで作成する機能の開発。従来、全世界の特許を参照することができるものの、特許を読み解き、理解するまでに多くの時間がかかっていた。そこで特許を要約して理解を早め、特許情報を開設するための図解を作成する機能を持つことで、特許の内容を理解するまでの時間短縮に成功した。 さまざまな現場を支援するための生成AI利用例が、i Smart Technologies株式会社が導入した、生産現場のIoTデータを生成AIで解釈することにより、データ解析時間を70%削減することに成功したソリューションだ。 利用しているIoTデータ収集サービスは、生産現場のデータ収集に長けているものの、データの見方がわからないために、現場改善にはつながらないことが多かったという。またコンサルティングサービスを提供しているものの、リソースに限りがあり、すべての顧客が利用できるわけではない。 そこで、収集したデータから得られる知見を、テキストで説明する機能を付加。現場でも利用が進むよう、「AI製造部長」というペルソナを作り、当事者がぼんやりと認識していた生産遅れ、設備停止などの課題をAI製造部長が検知して、全体に通知する仕組みを作った。その結果、原因の特定と調査にかかる時間を半減することに成功している。 株式会社ペライチでは、顧客のホームページ作成を支援するために、参考となるサイトのURLのみでサンプルを作成する「ペライチクリエイトアシスタント」という機能を5カ月で開発。従来は10営業日程度かかっていたサンプルホームページ作成時間を、10分へと大幅に短縮することに成功している。 なおAWSでは、こうした事例公開とともに、AWS生成AIサービス概要、業界・目的別ユースケース、生成AIサービスの使い方などを網羅したポータル「生成AI Contents Hub」を公開し、どんなユースケースがあるのか、探し出せる環境を提供している。 また、経済産業省が実施する、日本の生成AI基盤モデル開発力底上げと、企業等の創意工夫を促すことを目的とし、245億円以内の助成が行われる取り組み「GENIAC」に、AWSは第2期の計算リソース提供者として関わっている。総数20のうち13の採択企業・団体が、AWSを利用して基盤モデルを開発する。 さらに、2024年からスタートした「AWS ジャパン生成AI 実用化推進プログラム」は、7月22日の発表時の予測を超えて大きな反響を得た。 「7月時点で、50企業・団体程度が応募してくれればとお話していたが、すでに60を超える応募があり、現在でも問い合わせがあることから、応募締め切りを10月末日からいったん延長し、11月22日とすることを決定した。興味があればぜひ、応募してほしい」と、さらなる応募を呼びかけている。
クラウド Watch,三浦 優子