なぜ中国人の英語力はここ数年で「ガタ落ち」してしまったのか?
中国は4年ほど前まで、世界の国々のなかでも「比較的英語ができる」国だった。ところが近年、その状況が変わりつつあるという。英誌「エコノミスト」が報じた。 【画像】なぜ中国人の英語力はここ数年で「ガタ落ち」してしまったのか?
38位から91位に
2008年の夏季オリンピックに向けて、開催地の北京では、外国人観光客と接する可能性のある市民に英語を教えるというキャンペーンがスタートした。警察官や公共交通機関の職員、ホテルスタッフもその対象となった。目標のひとつは、タクシー運転手の8割に、基本的な英語能力を習得させることだった。 しかしいま、北京を訪れる外国人はみな、英語を上手く話せる中国人がずいぶん少ないことに気づくだろう。「8割」という目標は幻想だった。タクシー運転手のほとんどは、相変わらず中国語しか話せない。国際空港の案内スタッフでさえ、外国人とのコミュニケーションに苦労している。入国審査官はよく、コンピュータの翻訳システムを利用している。 中国が世界に開かれるようになってから40年。この間、「英語熱」はよく使われたキャッチフレーズのひとつだった。人々は外国語、とりわけ英語を学ぶことに熱心だった。多くは、そのスキルが国際企業での仕事につながることを期待していた。外国企業とビジネスをしたいと考える人や、海外移住を夢見る人もいた。 だが近年、英語学習への熱意は薄れてきている。 世界最大級の語学学校「イー・エフ・エデュケーション・ファースト(EF)」が11月に発表した「EF EPI英語能力指数」ランキングによると、世界116ヵ国・地域のうち中国は91位で、4年前の100ヵ国中38位から大きく順位を落としている。
人々の志向が変化
中国では、この指数の正確さを疑問視する人もいる一方、国家がより閉鎖的になっていくなか、こうした傾向は明らかだと指摘する人もいる。 たとえば、新型コロナウイルスによるパンデミックの間、中国は国境を封鎖した。一般市民は言わずもがな、役人やビジネスマンもほとんど海外に行かなかった。世界の他の国々が国境を開放するようになってからも、中国の国境は封鎖されたままだった。 さらに、時を同じくして、英語圏の国々との関係が悪化した。貿易戦争や外交問題により、米国や英国、オーストラリア、カナダとの関係はより緊張したものとなった。 政治家や学校側が、学校で英語を学ぶ時間を制限し、大学入試における英語の比重を減らそうとする向きもある。2022年、ある議員は国語の教育を促進するため、英語の比重を減らすことを提案。教育部(日本の文科省に相当)はこれに異議を唱えたものの、中国の一流大学の教授陣は、学生の多くは以前ほど英語を重要視しておらず、英語を学ぶことにあまり興味がないと述べる。 中国経済が減速するにつれ、人々はより慎重かつ内向きになっている。海外旅行をする中国人はパンデミック以前に比べて減少している。若者は英語を必要とする仕事にあまり興味を示さず、代わりに公共部門での退屈だが安定した仕事を追い求めている。 翻訳アプリも急速に改良され、普及しつつある。このツールは中国以外の国にも影響を及ぼしているかもしれない。EFのランキングでは、テクノロジー分野に強い日本と韓国も、英語能力に関して劣勢にあることを示している(日本は92位、韓国は50位)。 スマホが流暢に外国語を話してくれるのに、新しい言語の学習に時間を費やす必要はないのかもしれない。