障害児の親を悩ませる、もう一つの「小1の壁」――突きつけられる「就学活動」の現状 #こどもをまもる
突然突きつけられた「承諾書」
今年2月8日。東京23区東部に住む水谷久子さん(仮名、44)は、自宅から700~800メートルのところにある小学校の校長室で、突然突きつけられた「承諾書」に当惑していた。 6歳の長女にはダウン症があり、区教育委員会からの判定は「特別支援学校への就学が適当」だったが、担当者からは「判定は出るけれども、希望通りに行けますから」と伝えられていた。そして、2月に入り、地域の学校への就学通知が送られてきた。だから、小学校から「一度お話を」と電話がかかってきたときも、特に深く考えなかった。 そして約束の時間に校長室を訪ねると、いきなり、学校側のできないことを羅列した「承諾書」を渡され、署名するように促されたのだった。「みんなこれに署名をしているのだろうか」と疑問に思いながらも、受け入れないと入学させてもらえないと思い、署名した。
しかし、周囲に話を聞いても、承諾書を提示された保護者は一人もいなかった。「障害のある子どもの親にだけ事前に承諾書への了承を求めるのは差別ではないのか」。そう思った水谷さんは、学校側に承諾書への署名撤回を告げる手紙を送る。学校側から連絡があり、3月27日、知人女性とともに学校を訪ねた。校長から形ばかりの謝罪があった後、「承諾書はなしにしますが、こちらの気持ちは変わっていない」と告げられた。 すでに地域の学校に障害のある子どもを入学させている先輩保護者から「毎年のように、特別支援学校に移ったらどうですかという『肩たたき』におびえている」という話も聞いている。実際、水谷さんも2月に校長から「お兄さんが卒業してもこの学校にいるのか」と問われ、嫌な気持ちになった。4月6日、長女は無事入学式を迎えたが、不安な気持ちはまだ消えていない。
「最初の分離は一生の分離の始まり」
愛知県で障害のある子どもを持つ親の相談に乗っている「名古屋『障害児・者』生活と教育を考える会」の代表、川本道代さん(63)は「本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ」という点も不足していると指摘する。 「就学活動中の保護者に対して、教育委員会や学校から投げかけられる『定番の言葉』がある。『将来の自立のためには特別支援学校のほうがいい』とか『通常学級に行くといじめられて子どもがつらい思いをする』とか。通常学級に行くメリットについては何の説明も行われず、デメリットばかりが伝えられます。その上で『どこを希望しますか?』と問われたら、保護者はどう判断するでしょうか。最終的に、保護者が希望し、選択したような形へと誘導がなされているんです」 川本さんによると、通常学級から特別支援学級や特別支援学校に移ることはたやすいが、その逆は相当困難だという。「就学活動の段階で相談に来てくれる場合、経験に基づいていろいろなアドバイスをすることもできるのですが、後から別の選択も可能だったことを知る保護者も少なくない」と説明する。 障害のある子どもと障害のない子どもが、ともに学びともに育つ社会を目指して活動する兵庫県西宮市の団体「インクルネット西宮」は2022年1月、「障害のある子どもの小学校入学ガイド」という冊子を作成した。就学活動を経験した保護者らが、就学前に知っておきたいことなどをQ&A形式でわかりやすくまとめたものだ。保護者や教師、障害当事者の体験談も豊富で、用語の説明などもふんだんに盛り込まれている。