障害児の親を悩ませる、もう一つの「小1の壁」――突きつけられる「就学活動」の現状 #こどもをまもる
起こり続けている判断のすれ違い
2013年の学校教育法施行令改正で、就学先の決定の仕方は大きく変更された。就学の決定にあたっては「市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則」とすることになったのだ。 しかし、地域の小学校を希望しながらも「特別支援学校への就学が適当」と判断された辻さんや龍円さんの例からも分かるように、本人・保護者の意見と教育委員会の判断のすれ違いは今なお起こり続けている。それは、原則は「本人・保護者の意見を最大限尊重」としながら、「最終的には市町村教育委員会が決定することが適当」とされている影響が小さくない。 この点は、過去にも問題視されてきた。「障がい者制度改革推進会議(推進会議、2009年12月に内閣府に設置)」は2010年6月に出した「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」の中で、障害のある子どもの就学制度について「障害の有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍すること」を原則とするよう求めた。推進会議の意見を受けて就学制度などについて議論を行った文部科学省の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会(特特委)」でも、「就学先の決定権は保護者にあるべき」といった意見が委員から出た。 さらに2010年11月開催の推進会議でも、この問題について多くの批判の声が出た。議事録によると、このとき、メンバーの一人だった立命館大学教授の長瀬修さんは「現在の就学先決定の仕組みに非常に問題がある。本人・保護者の意見を尊重することでは足りなくて、本人・保護者の同意を確保するといった点を反映するべき」と要望している。しかし、文科省は、就学先の決定の主体は、法制度上あくまで市町村教育委員会にあり、保護者の同意は必ずしも必要ないとの姿勢を崩さなかった。 その姿勢は現在も変わっていない。今年3月17日、障害のある子どもの就学や進学の相談に応じている団体が、参議院議員会館の会議室で文科省の担当者と交渉の場を持った。団体側は、通常学級への就学拒否に遭った複数の事例を挙げ、「本人・保護者の意向が最大限尊重されていない」と訴えた。しかし、出席した同省の山田泰造特別支援教育課長は「文科省としては、教育委員会に『保護者の意向を最大限尊重して』と言っているが、最終的には設置者である教育委員会が決めること」といった返答を繰り返した。