ジムでも、工場でも、発電所でも設備運用はソラコム “IoT×AI”で小さく始めて楽になる
ソラコムは、年次のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2024」を開催。本記事では、hacomono、ヤンマーホールディングス、北海道ガスにおける、設備運用の自動化・省力化事例が披露されたセッションを紹介する。 【もっと写真を見る】
ソラコムは、年次のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2024」を開催。 本記事では、hacomono、ヤンマーホールディングス、北海道ガスにおける、設備運用の自動化・省力化事例が披露されたセッションを紹介する。3社の事例に共通するのは、すでにあるIoTやAI・機械学習の技術を組み合わせ、スモールスタートかつクイックに、無人化や効率化を実現していることだ。 hacomono:IoTで生成AI活用?で始めた問い合わせ対応の自動化・省力化 hacomonoは、ウェルネス産業のデジタル化を目指すスタートアップ企業。運動施設向けオールインワン・マネジメントシステムである「ウェルネス」は、フィットネスクラブや運動スクールを中心に、6400店舗以上に導入されている。 同社のサービスはオンラインが中心となるが、ウェルネス施設にはIoT機器も欠かせない。同社はIoT部を立ち上げ、スマホ上で完結する「入退館システム」や、ファシリテーションサービスとの連携、AIカメラなどを開発・提供している。 そのひとつであるQRコードを用いた入退館システム「Lock QR」には、バックエンドにソラコムのソリューションを活用される。hacomonoのIoT部 マネージャーである岩貞智氏は、「ソラコムによりスタッフが一度も介在することなく、入会から決済、店舗利用まで簡潔できる仕組みを実現できた」と説明する。 Lock QRは、「SORACOM Arc」と「SORACOM Air」という2つのコネクティビティサービスを利用して、有線LANとセルラー通信どちらも同一に管理できる構成をとる。クラウドとの連携では、SORACOMのクラウドサービスがリモートアクセスや稼働状況などのデバイスの管理を担い、エンドユーザー管理や認証認可などは、hacomonoのクラウドとAPI連携する。 Lock QRは全国各地に数千台以上導入され、店舗ごとに環境がバラバラ、そのため、保守運用に多大なコストが発生していた。顧客からの問い合わせはSlackに投稿して、それを担当者がひとつひとつ対応。属人性が高く、エンジニアリソースが割かれていた。解決のために試したのが、生成AI連携による自動化である。 まずは、問い合わせ方法を標準化。不具合用の問い合わせフォームを設けてることで、生成AIが解釈しやすいよう下地を作った。続いて、ソラコムのコンソールがすべてをAPI取得できることを活かして、ログの状態取得作業を自動化。最終的には、問い合わせ内容と状態を生成AIに与え、過去の問い合わせを踏まえて回答を推論させる。一連の仕組みで、簡易的なトラブルは、エンジニアを介さず対応できるようにした。 岩貞氏は、「『IoTで生成AIってどう使うの?』と懐疑的だったが、問い合わせ対応を効率化して、IoTサービスの品質を向上できた。特に、自社デバイス以外の環境要因が含まれる場合、過去の事象からトラブルを追い込む必要があり、生成AIが効果的。元々、すべてを解決することを目指しておらず、『少しでも対応を減らせればよい』という目的を立てたのも良かった」と締めくくった。 ヤンマーホールディングス:クラウドカメラ×生成AIで、低コスト・高効率でフィードバックループを高速化 ヤンマーは、事業の原点となるディーゼルエンジンをコアに、農業機械や建設機械などを手掛けるグローバルメーカーだ。意外なところでは、レストランの運営などの食事業も展開している。 同社は、製造業の人手不足が深刻化する中、IoTを含むテクノロジーを活用した、現場の活人化に注力している。一方で、同社のデジタル戦略推進部 DX推進G 河野銀氏は、「現場には、準備やセキュリティ、コスト、理解といった“IoTの壁”がある」と語る。この壁を乗り越えるためにソラコムを活用した課題解決に挑んだ。 その課題とは、設備管理における「現状把握」だ。設備に問題が発生した際には、設備に向かって目視で確認した上で、事務所に戻って調整していた。これを、ソラコムのクラウド型カメラサービス「ソラカメ」と予測AIを用いて、段階的に改善した。 まずは、現場にソラカメを設置してリアルタイムで動画を取得、遠隔監視で移動コストを削減した。次に予測AIによる自動判定で、属人的な判断からも脱却した。アーキテクチャーとしては、ソラカメの動画データをAPI・IPaaSで横流ししつつ、事前学習済みの予測AIの判定結果に基づいて、通知やレポートを生成している。 ソラカメを選んだ理由として河野氏は、「クイックに構築できて、セキュリティも高く、低コスト。APIも200種類以上あり、アジリティも高い。欲しいときに手に入って、色々なことができる、いわゆる“QCD(品質・コスト・納期)”の点で評価した」と説明する。 最初は、現場から「コストが不安」といった声が挙がったという。しかし、ソラカメであれば少ないコストですぐに挑戦できる。カメラ設置して接続するだけで構築は1時間程度で済み、多様なAPIでクラウドやAIとつなげられPoCも容易。今では予測AIのNG判定と設備データを紐づけ、設備を最適化するところまで進んでいる。 こうして、すべてに人が介在していた設備管理では、ソラカメで映像を集め、AIが意思決定し、データに基づいて調整するという“フィードバックループ”が回せるようになった。河野氏は、「デジタルの本質は、課題を設定して、情報を集めて、意思決定をして、アクションする。こうしたフィードバックのループを高速化することだ」と締めくくった。 北海道ガス:発電所や温水機の運用・管理を“楽にする”IoT化の数々 北海道ガスは、ガスはもちろん電気、熱、省エネサービスまで提供する総合エネルギーサービス会社だ。ガスにおいては約60万件、電力においては約24万件の顧客を抱える。 同社が披露したのは、自社だけではなく、顧客の設備運用も楽にする取り組みだ。 まず自社設備の運用においては、発電所の設備画面を遠隔チェックする仕組みを低コストで構築。同社の発電所には、発電機や各種機器を動かすためのネットワーク的に孤立したOT設備がまだまだ存在する。北海道ガスのエネルギーシステム部 係長である國奥広伸氏は、「OT設備に問題が生じると、専用PCの画面に警報が表示される。ネットにつながっていないので現場で目視しなければという、アナログな問題で苦労していた」と説明する。 この問題を、画面を撮影して送るという「非常に単純な方法」(國奥氏)で解決した。Raspberry Piで写真を撮り、AWSのAmazon S3にアップして、自社用のポータルサイトから確認できる仕組みを構築。加えて、Raspberry Pi側で画像解析を行い、問題が発生時には自動通知される。常時接続せず、1分で1回定期実行するなどコスト面での工夫もなされ、「外部では数百万かかる費用を最小限に抑えた」と國奥氏。 高度な取り組みとして発電所の予知保全にも取り組む。発電所は、ガスエンジン式の発電機であるため、ポンプが停止すると発電が止まってしまう。大きな損害を生むとはいえ、なるべく低コストでかつコードを書かずに予知保全がしたいということで、「Amazon Monitron」を導入した。 これはAWSの提供する産業用の機械学習サービスであり、センサーとゲートウェイ、アプリケーションで構成される。Amazon Monitronでポンプの振動を常時計測、ゲートウェイとLTEルーターを有線LANなどでつなぎ、SORACOM Airを介してデータを取得する仕組みだ。この仕組みで、振動計測のために現場を訪問することなく、常時検測で安心感も高めている。 続いては、顧客の設備運用を楽にする取り組みだ。北海道の業務用建物では、温度調整はセントラル空調方式で冷温水を這わすことが一般的で、これには「吸収式冷温水機」が用いられる。同機器は、冬と夏で負荷が増減するためチューニングをすると省エネにつながるが、顧客側の負担が大きかった。顧客を支援するために開発したのが、遠隔省エネのIoTサービス「i-Ch」だ。 同サービスでは、吸収式冷温水機用の制御盤を提供し、冷温水の温度に合わせて機器を最適化して、遠隔制御も可能にする。制御盤は、ゲートウェイとマイコン、各種モジュールで構成され、アナログ信号のやり取りや温度計測などを担う。クラウドとはデータ転送サービス「Soracom Beam」を介してつなげている。LTEモジュールを搭載しているため、LAN工事などの初期費用も不要。すぐに省エネを実感できるサービスだ。國奥氏は、「実際に10%前後省エネできていると好評、お客様自身がコントロールせずにすむため、省人化にも寄与している」と強調した。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp