【相撲編集部が選ぶ九州場所千秋楽の一番】琴櫻初優勝! 来場所綱取りへ。大関同士の相星決戦を制す
27歳での初優勝は、くしくも祖父の先代琴櫻(第53代横綱)と同じだ
琴櫻(叩き込み)豊昇龍 宿命を背負ったサラブレッドが、ついに初めての栄冠をつかんだ。 【相撲編集部が選ぶ九州場所千秋楽の一番】霧島、13勝目を挙げて自らVに花添える。来年初場所は綱取りへ 琴櫻が、千秋楽の大関同士の相星決戦で豊昇龍を叩き込み、初優勝。初めての賜盃を手にした。 「重かった」という、賜盃を手にした感想の一言は実感だろう。年間最多勝を獲得した今年だが、1月場所は優勝決定戦で照ノ富士に敗れ、5月場所は13日目まで大の里とトップを並走しながら、14日目に痛い星を落とし、優勝を逃していた。3月、7月も10日目までに勝ち越しを決めながら終盤に失速、何度も悔しい思いをしてきた。 だが今場所は違った。王鵬に敗れた3日目まではもう一つの内容だったが、4日目、好調の若隆景をガッチリつかまえ、前に出て一蹴したあたりからグイグイ調子を上げた。悪いときには腰を引いてさばきに出るような感じになる琴櫻だが、それ以降はそんな相撲は一番もなく、腰の入った攻めを見せ、持ち味の守りも万全だった。八角理事長(元横綱北勝海)も「今場所は攻めるようになった。それによって楽に取れるようになったのでは」と高評価。本人は「よくない内容もあったが、その中で一つずつ白星につなげていけて、それがどんどんいい相撲に変わっていって、最後、しっかり結果につながったのかと思う」と今場所を振り返った。 この日も、琴桜らしい“受けの強さ”が光った。豊昇龍は予想どおり、立ち合いから積極的に突いてきた。何度も何度も右の突きからノド輪を繰り出し、先手で動く。相撲としては豊昇龍のペースだ。豊昇龍は右で上手を取るとすぐに上手投げ。しかし琴櫻はうまく腰を寄せて投げ飛ばされるのを防ぎ、右から突くように叩くと、左は相手の腕を押さえつけて上手を切りにいった。これが、投げを打った反動か、豊昇龍が右足を滑らせたタイミングとピッタリ合って、豊昇龍はバッタリと手をついてしまった。 「がむしゃらに取っていたので、全然内容を覚えていない。気づいたら相手が土俵に落ちていたので、それでやっと勝ったと実感した」と琴櫻。こうして、琴櫻の初優勝は成った。 力相撲にはならず、むしろ豊昇龍ペースの動きの中での、あっけない決着ではあったが、見方を変えれば、先手で動かれながらも、思いどおりに右からの投げを打たせなかった、琴櫻の守りの強さという持ち味が出た一番、ともいえるだろう。 大関5場所目、27歳での初優勝は、くしくも祖父の先代琴櫻(第53代横綱)と同じだ(昭和43年7月場所、13勝2敗)。 これには、「後から聞かされたんですけど、間に合ってよかったです」と答え、「そろそろ優勝しないと先代にも怒られると思っていたので」という言葉も。 「先代にどう報告を?」と聞かれた際には、「先代は横綱ですし、ここで満足するなと言われると思う」と答えた琴櫻。さあ、いよいよ年が明けての初場所は綱取りだ。すでに今年、年間最多勝も手にしており、番付上も大関の中ではトップと、その安定感は際立っている。今場所のような相撲が継続できれば、連続優勝の可能性は十分にあるだろう。 ただ、そういうイメージはあまりないとはいえ、3人の大関の中ではほかの2人より少し年上であることも事実なので、できればゆっくりしないで、先に一気に駆け上がってしまいたいという面もある。 先代は初優勝から横綱まで、4年以上を要した。横綱になったときは32歳になっており、「遅咲きの桜」とか、口の悪い人には「ウバ桜」などとも言われた。初優勝の時期は先代をなぞった2代目だが、上の番付に上がるタイミングは、先代に遠慮することなく、スカッと決めてもらいたいところだ。 文=藤本泰祐
相撲編集部