「人生で無駄なことはひとつもない」挑戦を続けた元アイドルが得た人生哲学【バーテンダー・小栗絵里加(後編)】
女性バーテンダー日本一を決める『なでしこカップ』で優勝歴を持つ小栗絵里加さん。彼女の原点は夢だったアイドルになるべく奮闘した日々だ。AKB48の2期生オーディションを受けるも落選し、再起をかけて奮闘する中でも生活のためにバイトは必須。睡眠時間を削り続ける中、無理がたたりドクターストップがかかってしまった。 【トーク動画】「回り道をしてしまったけれど…」元AKB候補生・小栗さんが挑戦から学んだこと
「アイドルのお仕事はすごく楽しくて、アルバイトしていたバーのみなさんも優しくて、寝る時間さえ削れば何でもできる。もっといろいろなことに挑戦しようと思っていた矢先だったので、『もう歳なのかな』って思いました」 退院後に進退に迷う小栗さんに、バイト先のバーの店長が声をかけてくれた。小栗さんの真面目な働きぶりが認められ、社員としての誘いがあったのだ。当時はバーテンダーになるつもりはなかった小栗さんだが、ここで新しい道を考えるように。そんな時、偶然再会した旧友に背中を押された。 「学生の頃にバンドを組んでいたんですけど、その時のボーカルに久々に会った時、『ひとつのことを貫き通すだけがかっこいいことじゃないと思うよ。切り替えて新しい仕事をするのも俺はかっこいいと思うよ』って背中を押してくれたんです。その一言がきっかけになって踏ん切りがつきました」 前向きな気持ちでバーテンダーとしてのリスタートを決めた小栗さん。仕事の本質に気づいたからこそ、新しい道に全力投球する覚悟が決まったと振り返る。
「バーテンダーもアイドルも、本質はお客様に喜んでもらう職業なんですよね。ツールが違うだけであって、来てくれた人をおもてなしして喜んで帰ってもらうのは変わらないと思った時に、『バーテンダーとしてこの先がんばっていきたい』って前向きな気持ちになりました」 そうして始まったセカンドキャリアでは、星の数ほどあるお酒を覚えたり、マスターとの修行をしたりとふたたび多忙な日々を送った。充実した毎日を送る中で、彼女の芯となったのが感謝の気持ちだ。 「ファンの方々やお客様、職場のみなさんとか、今までまわりの人たちに支えられて過ごしてきたと思うんです。お世話になった人たちに感謝したい気持ちはすごくありましたね」 コツコツと修業を積み、2017年には女性バーテンダー日本一を決める『なでしこカップ』で優勝。2016年には念願だった自身の店舗『Bar Algernon Sinfonia』をオープンさせてオーナーバーテンダーとなった小栗さん。 アイドル時代に目覚めたトレーニングもライフワークとなっており、磨いた肉体美でボディコンテストにも参戦。まさに“美ボディバーテンダー”として充実した人生を送っている。お客様を喜ばせるという仕事の本質、プロ意識、人前に立つ舞台度胸など、アイドル時代からすべてがリンクして今の彼女がつくられた。
「人生において無駄な経験って多分一個もないと思うんですよ。遠回りしたと思っても、いつかはその時のがんばりが活きてくると思うので、みなさん明るく元気にがんばっていただきたいです。ちょっと疲れてしまった時は、ぜひ当店に来て癒されてください」 小栗さんは今日もバーカウンターでシェイカーを振り続ける。人生の酸いも甘いも味わった彼女のおもてなしは、多くの人々に勇気や希望を与えていくに違いない。
取材・文・写真/森本雄大 写真提供/小栗絵里加