<拉致問題>安倍首相の訪朝は交渉打開の切り札となるか
小泉首相の訪朝時の“確約”
小泉首相訪朝の場合は、北朝鮮にとって日本との関係を打開し、進展させる大きな機会であり、北朝鮮側の交渉者は、日本側の期待に添うことができるという趣旨の確約をしたと思います。だから小泉首相は訪朝し、5人の拉致被害者の帰国が実現しました。しかし、これは拉致問題の部分的解決でした。その他の人については日本側の期待するような結果は得らなかったので、小泉首相の訪朝をもってしてもその帰国は実現できなかったのです。 もし安倍首相が訪朝するとすれば、失敗に終わるリスクはその時に比べはるかに大きいと言わざるをえません。決定的に異なるのは北朝鮮が「8人は死亡した」と説明していることです。1人でも生存していると北朝鮮が説明していれば話は違ってきますが、それはありません。北朝鮮の説明をそのまま受け入れることはできないとしても、日本として北朝鮮の説明を否定しさることができない限り、日本の行動に制約が出てくるのはやむをえないことです。
特別調査は金正恩氏の指示か
北朝鮮は、過去の調査結果にとらわれず徹底的、全面的に再調査すると伊原局長ら日本側代表団に確約しました。この特別調査については金正恩第1書記の指示が出ていると思います。金正恩氏はまだ30歳代の前半で、政治経験が浅いのは事実ですが、短期間に新指導者としての地位を確立しつつあるようです。しかし、よく調べてみなければ分からないことがあるのは北朝鮮においても同じことです。そのことにかんがみると、今後必要なことは一挙に安倍首相の訪朝に走るのではなく、特別調査を進め、煮詰めていくことであると思います。 (美根慶樹/キヤノングローバル戦略研究所)