合宿は松山英樹邸で 日本から門をたたきにやって来た若手選手
ところが実際のゴルフ場、とりわけPGAツアーが開催されるようなコースでは、一概に同じになるとは言えない。松山が2人をアウトドライブすることがしばしばあるという。黒宮コーチが解説する。「松山プロはたくさんの弾道を打てる。ロケーションに負けない、それに適した球を選ぶんです」。ドローにフェード、高さや強さの打ち分け。ティイングエリアからの見た目、フェアウェイの形状によって、放物線の形を変える。 ベイヒルでのプレーに胸を躍らせていた杉原は「コースに入った瞬間、難しいと思った」という。「(視界は)広いのに狙える場所が狭い。松山さんはただ飛ばすだけじゃなくて、ボールの落としどころを知っている。だから結局、僕らよりも前に行く」。ティショット一つとっても差を感じるのだから、背中はいっそう大きく見えた。
「いろいろ収穫がありました。この試合を観られたのも良かった」。大会初日のプレーを目で追い、翌日帰国の途に就いた岩崎は言った。感銘を受けたのは一つひとつの技術だけではない。「(松山は)練習やトレーニングが目先の試合を見ている感じではなくて、先のことを、目標を見据えてやっている感じがしました。それを、すごく長く続けている」 もちろん先輩は年齢の分だけ経験も豊富だが、これまで過ごしてきた時間の濃密さは他選手と一線を画すかもしれない。杉原は、松山には「全てに自分が強くなるための明確な意思がある」ように感じた。
「トレーニング一つとっても、どうしたらスイングにつながるかを考えている。ゴルフはもちろんすごいんですけど、自分の身体のことを、コントロールの仕方を知っている。それに松山さん、『どういう意識で打ってるの?』なんて、向こうから聞いてくるんです。“僕クラス”の言うことなんて聞いても…と思うんですけど、ちょっとでも自分にとって良いものを取り入れようとしている」 岩崎と杉原がフロリダで多くのものを吸収したように、先輩にとっても、欧米に渡って少しずつ成果を出している若手選手たちの存在は今、発奮材料でもある。2人と過ごした数日間について、松山は「刺激になる。ただ、疲れる」と笑って息をついた。「でも…勝ってほしいからね」。近い将来、同じフィールドでぶつかり合える相手を待っている。(フロリダ州オーランド/桂川洋一)
桂川洋一