相次ぐ「ハラスメント町長・市長」の不祥事…住民が“不良首長”を辞めさせる「有効な手段」とは
議員にはたらきかけて「不信任の議決」をさせるのも困難
首長を辞めさせるには、リコールの制度の他にも、その地方公共団体の議会の議員を通じて首長に対する「不信任の議決」を行うようはたらきかける方法が考えられる。 すなわち、地方公共団体の議会には、首長に対する不信任の議決を行う権限がある。不信任の議決が行われた場合、首長は、辞職するか、議会を解散するかを選択しなければならない。 不祥事を起こした首長にとっては、もし議会を解散したとしても、再度議員の選挙が行われ、反対派が多数を占めることが想定されるので、事実上、辞職を選ばざるをえない。 ただし、この不信任の議決の要件も厳しい。総議員の3分の2以上が出席の上、出席議員の4分の3以上の賛成が要求されている(地方自治法第178条第3項)。 三葛弁護士: 「首長がよほどの不祥事を起こしたとしても、4分の3以上(総議員の2分の1以上)の議決がなければ辞めさせられないしくみです。 裏を返せば『絶対この首長の味方をする』という議員が4分の1より1人でも多ければ、不信任案は通らないということです。中間派もいたりするので、実際にはせめぎ合いになります。 不信任の議決に厳しい要件が設けられているのは、ここでも、要件が緩やかだと党派性を帯びやすくなるからです。 住民の直接選挙により選ばれた首長を、議会の多数派が、気に入らないからといって簡単に辞めさせることができるようになってしまうのは、混乱を招きかねません。 なお、議員の立場としても、不信任の議決は避けたいという思惑があります。もしも首長が議会を解散すれば、次の選挙で自分が落選するリスクが生じます。何より選挙となるとお金がりますし、自分も支援者も大変な思いをします。 選挙が4年に1回だということを前提に人生設計をしている議員も少なくありません」
結局、住民がとりうる「最も現実的で有効な方法」は?
このように、住民の立場としてリコール(解職請求)の運動を行うにも、議会の議員にはたらきかけて不信任の議決をさせるにも、きわめて厳格な要件が設けられているうえ、実際上はハードルが高い。 そして、そのことは、多数派による反対派への抑圧に悪用されるリスクを考慮する限り、やむを得ない制約と考えざるを得ない。 しかし他方で、大きな問題を抱える首長が在職し続けることによるリスクも看過できない。住民の立場として有効な手だてはないのか。 三葛弁護士は、住民の立場として、議員にはたらきかけること、リコール運動を行うことは、実現のハードルが高くても、事実上は有効な手段となりうるという。。 三葛弁護士:「特に、議員を通じてはたらきかけることの意味は十分あります。 市議会議員を務めた経験の肌感覚として、議会に首長の味方となる議員が4分の1より少ないというのは、相当に切羽詰まって厳しい状況です。 首長は予算を通すにも、議員の過半数の賛成を得なければならず、味方が少ないことは地方公共団体の運営が不安定になる一つの要素です。 味方が議会の4分の1を割っている状況で、かつ有権者も納得する理由付けがあり(そこはマスメディアの役割でしょう)、議会の側から首長に対して『このままだといずれ不信任案も可決されるようになるよ。あなたもうアカンよ』と最後通牒を突き付けられた場合、たいていは自ら身を引きます。 議会による不信任の議決はいわば『伝家の宝刀』です。抜かなくても、その可能性が十分あるとちらつかせることは重大な威力を発揮します。 リコール運動についても、同じことが言えると思います。また、リコールについては、住民は首長の解職請求だけでなく、議会の解散請求もできます(地方自治法76条、78条)。 首長も議員も、大多数の住民を敵に回したら最後の最後にはリコールされるのであり、そこには常に緊張感があります」
弁護士JP編集部