中学校でのイングリッシュカフェで英会話に親しむ教員（京都市内）＝京都市教育委員会提供

　「京都市内の中学校の英語の先生は検定試験でどれくらいの点数を取っているのか」。京都市下京区の男性会社員（50）から、京都新聞の双方向型報道「読者に応える」に質問が寄せられた。中学生の息子が「英語の先生から、塾に通っている生徒を前提に教えている、と言われた」ために、英語教員の資質や指導力に疑問を持つようになったのだという。「英語の先生は、生徒にどんな風になってほしくて、どんな工夫をしてるのか気になる」とも話す。 【写真】「関関同立合格にはどれくらい勉強すれば」京都で進学フェスタ 　「塾を前提にした教育はやってはいけない。発言が事実なら指導が必要ですね」。京都市教育委員会学校指導課の山野斉道主任指導主事は、学校教育はあくまで授業が基本だと強調した。 　京都市では、英語などの語学力の判断指標として国際標準規格「CEFR（セファール）」を採用している。セファールは、英検やTOEIC、TOEFLなど各種資格・検定試験の結果を基に習熟度をレベル分けしており、中学校の英語教員は英検なら準1級、TOIECなら「自分の専門分野の技術的な議論も含めて、複雑な文章の主要な内容を理解できる」水準を「B2」として推奨している。 　文部科学省が全国の小中高を対象に実施した2023年度の英語実施状況調査によると、CEFR「B2」相当以上を取得している京都市立中の英語教員の割合は54・1％だった。全国平均の44・8％を10ポイント近く上回っている。 　ただ、山野さんは「資格と指導力はイコールではない」と言い切る。英検1級を持っていたら生徒にうまく教えられるかというとそうではなく、教員採用試験でも、「B2」レベルの英語力があれば1次試験を一部免除するが、資格を持っていないといけない決まりはないという。 　指導を受ける生徒たちの英語力はどうか。全国の中学生は卒業段階でCEFR「A1」（英検3級）レベルを目指すが、同じく23年度英語実施状況調査によると、京都市立中3年は55・3％の生徒にA1相当の力があった。全国平均の50・0％を上回る。政府が目標とする60％も、近く達成できる見通しという。23年度の全国学力テストでも、中3英語の平均正答率は、20政令指定都市中6位と上位だった。 　京都市立中の教員と生徒の英語力はいずれも全国平均以上だった。ならば、投稿者の子どもが感じた「先生への不信感」の原因はどこにあるのだろう。 　山野さんは、「教員と生徒個人の問題ではないか」としつつ、近年は学習内容や指導方法が従来とは大きく異なっていることから、「保護者が不安に思うことがあるかもしれない」と言う。 　2017年告示の現学習指導要領により、社会で活用できる英語の習得を目指して小学校英語が本格的に始まった。中学校卒業までに学習する単語数は、従来の1200語から1800語へと1・5倍に増えた。指導方法も一方通行の講義形式から、言語活動を通したパフォーマンス重視に転換した。単語を覚え、文法を習い、練習問題を解くのが従来型だったとすれば、会話を体験してからその規則性に文法を見いだし、単語を学習するというのが今の学習方法だという。 　市総合教育センター研修課の西川由起企画研修係長は「教員の英語力は一定あると思うが、特にベテランの先生はこれまでの指導法が通用しなくなって苦労している」と打ち明ける。京都市内では本年度、教員の英語力向上などを目的に、ALTと英会話をする「イングリッシュカフェ」が、ほぼ全ての市立中で放課後などに開かれている。 　取材結果を男性に伝えると、「教員の英語力や、教育委員会の英語指導の考え方も分かった」としつつ、なお疑問が残る様子。「まずは英語を楽しく学べることが大事ではないか」と、子どもが英語でコミュニケーションを取りたいと思えるような授業展開に期待する。「なぜ英語を学ぶのか、英語を学んでどのように役立てるのか、具体的に伝えられたらいい。私も子どもと話してみます」と返ってきた。 　CEFR「B2」レベル相当の英語教員割合は、京都府（京都市除く）では49・4％、滋賀県では47・1％と、いずれも半数程度だった。また、「A1」レベル相当以上の英語力を有するとされる中学生は京都府（同）では43・2％、滋賀県では52・7％だった。