諸葛亮孔明が絶体絶命の危機で用いた「インサイト思考」の秘密 相手が百戦錬磨の司馬懿だったからこそ時間や労力をかけずに乗り切ることができた
ビジネスでもプライベートでも、私たちは様々な課題に直面する。どうすれば効果的な解決策が見出せるのか──。その答えを探るヒントが「インサイト思考」という考え方にある。インサイトを「人を動かす隠れたホンネ」と定義すると、その考え方のポイントは「状況に隠れている本質を捉えて、一気に問題を解決する」というもの。歴史を振り返れば、それを最大限に活用した人物として「諸葛亮孔明」が挙げられるという。 【写真】諸葛亮孔明にしてやられた司馬懿
電通シニア・マーケティング・ディレクターの佐藤真木氏、電通マーケティング・コンサルタントの阿佐見綾香氏の両氏が、電通社内で広く使われている「インサイト思考」を紹介する共著『センスのよい考えには、「型」がある』(サンマーク出版)より、その思考法の要点を一部抜粋・再構成してお届けする。
インサイトをうまく使った「空城の計」
「インサイト」の威力が最も強力に発揮されるような場面があります。それは、「大ピンチ」や「どうにもこうにも行き詰まった」状況です。 ここで、大ピンチを乗り切るような「インサイト」を、もっと具体的に理解するために、みなさんも知っているような世界史上有名な「インサイトを使いこなした人」を例に挙げて考えてみましょう。 「インサイトを使いこなした人」としては、様々な意見があるかと思いますが、一人挙げるとすれば、三国志で天才的戦略家として有名な「諸葛亮孔明」(しょかつりょうこうめい)が挙げられるでしょう。 戦場の戦略家、いわゆる「軍師」である孔明は、数々の伝説的な逸話を残していますが、その中の1つに「空城の計」という有名な心理的策略があります。「インサイト」を非常にうまく使った例なので(三国志に興味のない方も少し我慢していただきつつ)ここで紹介させてください。
孔明が軍師として仕える「蜀」(しょく)という国が、敵国の「魏」(ぎ)へと大きな戦いを仕掛けている最中、孔明は仲間の武将に主力部隊を預けて、自身は残りの非常に少ない兵とともに「蜀」にとどまっていました。 しかしそこへ、敵の司馬懿(しばい)率いる魏軍が20万の大軍を率いて攻め寄せてきてしまいます。圧倒的不利な状況で不安と緊張が走った味方兵に対して、孔明は、城内を掃き清めさせて平常を装い、兵士たちには、なんと門を開け放った上で姿を隠すように命じます。そして自らは一人、城楼に上って琴を演奏し、敵を招き入れるかのような仕草をします……。 城門に到達した司馬懿は、何か孔明の策があるのではないかとおびえ、「これは孔明の罠であるに違いない!」と判断し、自軍に攻撃を命じることができませんでした。そして、なんと兵数で圧倒的な優位を誇っていたにもかかわらず、魏軍は撤退してしまったのでした。 司馬懿は後に、この「空城の計」こそが孔明の計略であったことを知ると、地団駄を踏んで悔しがったということです(注:『三国志(吉川英治歴史時代文庫)』(吉川英治著/講談社)を参照)。